役に立つオモシロ医学論文

毎日「入れ歯」を洗浄する高齢者は肺炎になりにくい?

口腔内衛生は心臓病のリスクにも影響
口腔内衛生は心臓病のリスクにも影響

 ご高齢の方は嚥下(えんげ)機能が低下していることも多く、飲食物や唾液などが気管に入って誤嚥性肺炎を発症してしまうことがあります。過去の研究によれば、口腔ケアなど口腔内の衛生状態を良好に保つことで、誤嚥性肺炎を予防できる可能性が示されています。

 しかし、これまでの報告は、入院患者や介護施設入所者を対象とした研究に限られており、地域に在住している高齢者でも同様に効果が期待できるかについては分かっていませんでした。

 そんな中、自然科学分野の学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」に入れ歯の洗浄頻度と肺炎リスクの関連を検討した研究論文が、2019年9月24日付で掲載されました。

 この研究では、地域に在住している65歳以上の日本人高齢者7万1227人(平均75・2歳)が対象となっています。研究参加者は「毎日入れ歯の手入れをしていますか?」という質問に対して「はい」か「いいえ」で回答し、過去1年間における肺炎発症との関連が調査されました。

 年齢、喫煙歴、肺炎球菌ワクチンの接種など、研究結果に影響を与えうる因子について統計的に補正して解析した結果、入れ歯を毎日洗浄する人と比べて、毎日洗浄しなかった人では、肺炎発症のリスクが1・3倍、統計学的にも有意に高いことが示されました。

 毎日入れ歯を洗浄していた人は、洗浄できるだけの認知機能や身体能力を有しているだけでなく、もともと健康に対する関心が高い集団かもしれません。この研究結果のみで入れ歯の洗浄頻度と肺炎リスクの関連を論じることは難しいように思います。ただ、口腔内衛生は心臓病のリスクにも影響していることが知られており、入れ歯の洗浄はできる限りこまめに行った方がよいでしょう。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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