90歳現役医師 最強の体調管理

男性の更年期に「男性ホルモン補充療法」という選択肢

(提供写真)

 働き盛りのうつ症状の多くはテストステロン減少が原因なのだという。

「うつと診断された50代の患者さんのケース。気分の落ち込みがひどいからと精神科を受診したのですが、出された薬を飲んでも改善しない。『先生、症状が良くならないんですけど……』と言っているうちにどんどん薬が増え、症状は一向に良くなりません。そんな薬漬け状態を心配した知人が、私の外来を紹介したのです。診察でじっくり話を聞いてみると、症状から男性更年期が原因になっている疑いが強い。そこで、血液検査をしてみると、やはりフリーテストステロン値が極端に低かったのです。そこで男性ホルモン(テストステロン)を注射によって2週間に1回程度補充する方法をおこなったところ、ほどなく気分の落ち込みは解消し、うつの薬はやめていただくことができました」

 そして再び精力的に仕事に取り組めるようになって、今も活躍しているという。

「もちろん、テストステロンとは関係がない、本当の『うつ』のケースもあります。しかし、若いころに心の調子を崩した経験がまったくなくて、40代後半から50代になって初めて『なんかちょっと変だ』と思ったり、極端な落ち込みが続いた場合は、テストステロン減少が原因の『男性更年期』を疑った方がいいでしょう。その場合、精神科や心療内科に行っても、治らないどころかますます悪化するだけです」

 53歳でうつ状態になり、心療内科を受診した男性(Y・Sさん)の場合はこうだ。

「この患者さんは抗うつ剤を処方されていました。長期にそれを服用していたのですが、症状は改善されず、健康度も落ちていくばかり。この方もテストステロンを補充投与すると、グラフ図(健康度を把握するチェックシステムでグラフが大きいほど良好)のように症状が改善されました。この間、抗うつ剤を少しずつ減量して、完全にやめるまで1年半かかりましたが、今では行動活性も増えゴルフではカートではなく歩きながらできるほどまで“元気”が回復しました。国際的な男性ホルモン治療報告のまとめによると、男性ホルモンを投与することによってうつ症状が改善し、社会的活性度も自信も回復、疲労感も少なくなるというものがあります。この報告は、更年期障害のいろいろな症状改善を的確に表していると思います」

 とはいえ、男性ホルモン補充療法に副作用はないのだろうか?

「まったくそんなことはありません。私の70代の患者さんで奥さんが『男性ホルモンを打ったらがんになる』という迷信に惑わされて反対し、治療を一時中断した方がおられました。せっかくパワフルになられたのに、元気がなくなり、耐え切れずにまた、私の元に。『妻がうるさいので』と間隔を空けたのが悪かったのか、以前ほどの効果は出ません。極めて残念な事例ですね」

(構成=中森勇人)

熊本悦明

熊本悦明

1929年、東京都生まれ。東京大学医学部卒。日本メンズヘルス医学会名誉理事長、札幌医科大学名誉教授。現在は「オルソクリニック銀座」(東京・中央区)で、名誉院長として診療中。近著「『男性医学の父』が教える 最強の体調管理 テストステロンがすべてを解決する!」(ダイヤモンド社)がある。

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