病み患いのモトを断つ

降圧剤は昼より夜に 心筋梗塞・脳卒中リスクが3~4割減る

落ち着いた寝る前の方が薬の飲み忘れがない
落ち着いた寝る前の方が薬の飲み忘れがない

 高血圧の人は4000万人を超え、60歳以上に限ると6割が高血圧だという。降圧剤を飲んでいる人は少なくないだろうが、ひょっとすると、その薬を飲む時間で運命が左右されるかもしれないという。

 衝撃の研究報告は、先月行われた欧州心臓病学会の機関誌に掲載されている。スペイン・ビーゴ大の研究グループは2008~11年にかけて高血圧患者1万9084人を登録。1種類以上処方されている降圧剤を飲むタイミングによって、寝る前に飲む「就寝グループ」と、起床した後に飲む「起床グループ」に1対1で振り分け、追跡して分析した。

 登録された人はみな、研究スタート時に血圧を測定。追跡中は1年に1回以上受診し、携帯用血圧計で48時間の血圧変動を測った。追跡期間は6・3年(中央値)で、1752人が脳卒中や心筋梗塞などを発症。310人が死亡した。注目は、その分析結果だ。

 血圧以外の影響を排除し、両グループを比較したところ、「就寝グループ」は「起床グループ」に比べて、あらゆる発症リスクが45%も下がったのだ。具体的に、心筋梗塞の発症リスクは34%減、血管内で行うカテーテル治療を必要とするリスクは40%減、脳卒中発症リスクは49%減、そして、心臓病で死亡するリスクは56%減――。どれも、有意差をもって、圧倒的に少ないのだ。

 降圧剤を飲むタイミングで、これだけ大きな差が生まれるのはなぜか。

「今回の研究は、降圧剤の種類を分けず、ひとくくりに追跡しているのがミソでしょう」

 こう言うのは、東京都健康長寿医療センターの桑島巌顧問(循環器専門医)だ。どういうことか。桑島氏に聞いた。

「ポイントは、薬効の持続時間です。降圧薬は、カルシウム拮抗薬やACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬などが幅広く、それぞれのタイプに、長時間作用型の薬から短時間作用型があります。長時間作用型は、薬効が1日以上持続するので、毎日服用していれば、飲むタイミングの違いで、不具合が起こることは考えにくい。今回、大きな開きが見られるのは、作用時間が短い薬を飲んでいる人が多かったのではないか」

 よく処方される薬の中には、作用時間の目安となる成分の半減期が7~8時間のものが珍しくないという。そういうものは1日2回服用だが、「医師および高血圧患者の高血圧治療に対する意識の実態調査」によれば、患者の6割が「薬が余っている」と回答。飲み忘れが多い実態が見て取れる。患者にとっては、出掛ける準備に忙しい朝より、落ち着いた寝る前の方が、飲み忘れ防止になるのかもしれない。

■服用方法は作用時間と24時間血圧でチェック

 もうひとつ重要なのが、睡眠中の血圧変動だという。

「血圧は日内変動があって、睡眠中は起床時に比べて収縮期血圧が10~20%下がります。ところが、高血圧だと、起床時とほぼ横ばいだったり、上がったりする。そういうタイプは、下がり切らなかった血圧が、起床とともにより高まるので、重大病を招くリスクが高い。作用時間の短い降圧剤を使用している方は、寝る前に服用すれば、予防効果が期待できます」

 そんな効果も重なり、「就寝グループ」の“劇的な勝利”がもたらされたようだが、自分勝手な服用変更はダメだ。

「人によっては、睡眠中の血圧が下がり過ぎることがあります。そこに降圧剤の薬効が重なると、過剰な血圧低下による脳の血流低下で、脳卒中になりやすいのです」

 では、どうするか。

「医師に相談して、服用されている薬を1日1回の服用で済む種類に替えてもらうのが最も合理的でしょう。今のままの薬で服用のタイミングを変えるときも、医師の相談は不可欠。24時間血圧を測定し、脳卒中リスクを防ぎながら、飲み忘れないタイミングを探ることが大切です」

 一度決めた服用タイミングは、毎日しっかり守ることだ。

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