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インフルエンザで脳梗塞、心筋梗塞、認知症に…なぜ起こる?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 インフルエンザの合併症といえば、肺炎をイメージしがちです。しかし、血管の病気を忘れてはいけません。

 たとえば脳梗塞や脳出血です。昔からインフルエンザに感染するとなりやすい、といわれてきましたが、今年2月の国際脳卒中学会では関連した2つの発表がありました。ひとつは米コロンビア大学の研究グループのものです。脳梗塞になった男女約3万人を調査したところ、インフルエンザになって15日間にわたり、脳梗塞リスクが約40%も上昇したというのです。しかも、その影響は最大で1年間続いたそうです。

 もうひとつは同じ大学の別の研究グループのもので、外傷がなくても自然に起こる頚動脈解離は、インフルエンザ発症から30日以内に起こりやすいと報告しています。頚動脈解離とは頚(くび)の動脈壁が裂けて壁内出血し頚動脈の中が狭くなる病気ですが、若年層の脳卒中の主な原因のひとつとされています。

 また、過去にはインフルエンザ感染により認知症を発症した91歳日本人女性の症例も報告されています。もともと軽い脳梗塞はあったのですが、無症状でした。インフルエンザ発症後、歩行困難となり、自分の名前も忘れ、看護師を家族と間違えるなど、認知症が進行したというのです。脳梗塞や脳出血による脳血管性認知症がありますが、脳MRI検査では変化は見られず、インフルエンザ脳炎、高熱と脱水が認知症発症に影響した可能性が高かったようです。

 急性心筋梗塞にも注意が必要です。昨年の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」は、インフルエンザと診断されて1週間以内で心筋梗塞になるリスクが6倍に跳ね上がるとの論文を掲載しました。興味深いのはインフルエンザの型によってそのリスクが変わることです。A型では5倍でしたが、B型では10倍と報告されました。

 インフルエンザ感染では、呼吸器以外に血管にも免疫が関係する炎症が起こることが考えられます。そのため、血管の内皮が傷つき動脈硬化層(プラーク)の破裂が起こることがあり、そこに血栓ができるのです。高熱と脱水による血圧低下や血液が固まりやすくなることも、血栓ができるのを助長します。また、感染のストレスによって冠血管がけいれんし、血管内腔が詰まったりすることも原因ではないかと考えられています。インフルエンザで心筋の炎症が生じ、心機能が落ちて不整脈が出ることもあります。

 インフルエンザは毎年流行するため、ありふれた軽い病気のように感じている人もいるかもしれません。しかし、侮ってはいけません。インフルエンザは毎年1万人以上が亡くなる恐ろしい病気です。できるだけ予防ワクチンを接種し、感染しても重症化しないようにして、異常を感じたら早めに病院で診断を受け、安静休養をすることです。

(東邦大学名誉教授・東丸貴信)

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