血管・血液を知る

冬に多い大動脈解離 60歳以上の男性は午前中の高血圧に注意

大動脈解離を発症した加藤茶さん
大動脈解離を発症した加藤茶さん(C)日刊ゲンダイ

 大動脈解離とは体の中心にある大動脈が裂けて剥がれてゆき、一度の発症で突然死することもある恐ろしい病気です。

 ゴルフのプレー中に倒れて病院に運ばれたタレントの笑福亭笑瓶さんや異変を感じて半月後に病院に運ばれた加藤茶さん(写真)はこの病気を発症しながらもなんとか生還できましたが、ミュージシャンの大滝詠一さんや作家の立松和平さんらは突然のお別れとなりました。

 大動脈は「外膜」「中膜」「内膜」の3層から成る体内で最も太い血管です。心臓に直接つながっており、酸素を多く含んだ動脈血を全身に送り出す働きがあります。大動脈解離は、中膜にできた傷や裂け目から血液が流れ込み、壁が裂けてゆく病気です。原因は、中膜の一部がもろくなっているためといわれますが、なぜそうなるのか、直接の原因は解明されていません。ただし、動脈硬化症を起こす高血圧症などの生活習慣病や加齢、ストレス、肥満が危険因子であることは間違いありません。私の知人でこの病気にかかった3人は、高脂血症の高齢女性、肥満と高血圧症の中年女性、ストレスの多い同級生でした。

 特に注意したいのが高血圧です。急性大動脈解離を起こした人の70~90%は高血圧です。患者数は女性より男性が約2~3倍多く、70~80代がピークとなります。発症は冬に多く、日中の特に午前6~12時の発症が目立ちます。ですから、60歳以上の男性はこれからの季節は午前中の血圧に特に注意した方がいいでしょう。

 動脈が解離すると、そこに流入した血液が血管の内部を圧迫し、血管が狭くなります。解離した部分に瘤ができることもあります。これを解離性大動脈瘤と言います。完全に詰まったり、最悪の場合、破裂から出血性ショック死に至ることがあります。資生堂「バスボン石鹸」のCMでブレークし先月急死した松本ちえこさんもこの病気でした。

 大動脈解離は解離の場所により2つに大別されます。A型は心臓に近い上行大動脈解離で、この部分が裂けて心臓の冠動脈や頭に行く頚動脈を圧迫し、心筋梗塞や脳梗塞を起こすこともあります。救命には緊急手術やステントグラフトという人工血管の挿入が必要となります。B型は胸部の下行大動脈から腹部にかけて解離するものです。血圧を下げ安静にすることで、大動脈瘤の破裂を防止できる場合もあります。

 ちなみにA型である胸部大動脈解離では、発症後48時間以内に50%、1週間以内に70%、2週間以内に80%の高率で死亡するといわれていますが、B型の下行大動脈や腹部大動脈の解離では、1カ月の死亡率は2割以下と予後は良好です。

 大動脈解離の症状は、胸部や背部の強い痛みが続くことが知られていますが、痛みが移る場合があるほか、まれに違和感のみのケースもあります。

 超高齢社会において大動脈解離はまれな病気ではなくなりました。メタボリック症候群やリスクのある人は定期的に人間ドックで体の状態を調べてもらい、生活習慣病の管理やストレスを避けることが大切です。

東丸貴信

東丸貴信

東京大学医学部卒。東邦大学医療センター佐倉病院臨床生理・循環器センター教授、日赤医療センター循環器科部長などを歴任。血管内治療学会理事、心臓血管内視鏡学会理事、成人病学会理事、脈管学会評議員、世界心臓病会議部会長。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定・指導医、日本脈管学会専門医、心臓血管内視鏡学会専門医。

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