専門医が教える パンツの中の秘密

裏スジの腫れ物の正体は「嚢胞」光を当てると透けて見える

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 性感染症専門医という立場から、これまで何万人ものペニスを観察していると、ペニスの裏側に液体(体液)がたまった袋状の腫れ物を見かけることがあります。ペニスの裏側というのは、尿道口の裏スジの部分やペニスからタマ袋にかけて縫い目のように走っている縦の線の部分です。医学的には、この部分を「陰茎縫線(いんけいほうせん)」及び「陰嚢(いんのう)縫線」と呼びます。

 袋状の腫れ物は水ぶくれのような構造をしていますが、性器ヘルペスや帯状疱疹(ほうしん)の発症で表れる膜が薄くて簡単に破れてしまう水ぶくれとは違います。これは軟部組織に液体成分が袋状にたまる「嚢胞(のうほう)」という病態です。液体の入った風船のように触ると比較的軟らかく、ペンライトで光を当てると半透明で透けて見えるのが特徴です。

 ペニスにできる良性の嚢胞は、できる場所によって病名が異なります。尿道口に接して片側あるいは両側にできるのが「傍外(ぼうがい)尿道口嚢胞」。尿道口に接することなく、裏スジから陰茎、タマ袋の縫線上(縫い目に沿って)にできるものを「陰茎縫線嚢胞」と呼びます。嚢胞の大きさは小さいものから大きいものまでさまざまで、陰茎縫線嚢胞は多発して見られる場合があります。

 ペニスに嚢胞ができる原因ですが、一般的に先天性(生まれつき)といわれていて奇形の一種です。しかし、尿道の外傷、炎症、感染などが加わることで後天性に生じるケースがあるとの報告もあります。傍外尿道口嚢胞の発症頻度は、乳児健診で500人に3人の割合で見つかるといわれるので決してまれな病気ではありません。

 とはいっても痛みやかゆみなどの自覚症状はなく、急にできるものではないので大人になっても気づいていない人もいるはずです。しかし、傍外尿道口嚢胞ではある程度大きくなると、おしっこが真っすぐ飛ばないという問題が出てきます。陰茎縫線嚢胞も大きくなったり、数が多いと美容上(見た目)の問題が出てきます。また、陰茎縫線嚢胞は12.5%に感染が起こるともいわれていて、その場合には痛みや陰茎の腫れが起こります。

 このような問題がなければ良性疾患なので放置していてもかまいませんが、気になる人は泌尿器科や外科を受診して相談してみるといいでしょう。治療は嚢胞の液体を抜くだけでは再発しやすいので、嚢胞の袋全体を取り除く手術が行われます。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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