体の大小の血管を全部つなぎ合わせると約10万キロとなり、地球を2周半も巡る距離に匹敵します。血液はこの血管の中で1分以内に全身を巡って心臓まで帰ってきます。その中に「好中球」という優れた成分があります。
白血球は顆粒球、リンパ球と単球に分けられ、好中球は顆粒球の一種です。手足に外傷を負い、細菌(ブドウ球菌、肺炎球菌、大腸菌など)や真菌(カビ)などに感染すると、好中球は真っ先にその傷口に集結して、これら有害物を捕獲して細胞内に取り込みます。そして、細胞内の食胞で細菌などを加水分解した後、のみ込んだものと一緒に死滅します。好中球の死体は膿となって組織外に放出されることになります。
では、死滅して減った「好中球」は、どのようにしてその数を元に戻すのでしょうか。好中球は骨髄内で作られた後、末梢血内で循環する以外に迅速に動員できるよう血管壁や組織、脾臓、肝臓などにも末梢血内に匹敵する量が、辺縁プールに存在しています。辺縁とは血管壁の近くという意味です。
骨髄にも末梢血内の10~30倍もの量の滞留プールがあり、これら生体内のすべてを合わせると、実に数千億個という好中球が存在しているのです。寿命は血液内で1日弱、組織内で数日と短いのですが、細菌感染の防御などで死滅しても、貯留プール内の好中球の動員により末梢血内を流れる好中球数は速やかに増加します。
好中球は感染だけでなく外傷、食事や運動、ストレスなどに対し、辺縁プールに滞留していた好中球が血管内に移動して防御態勢を取るのです。
特に細菌の感染時には、マクロファージ(貪食細胞)から放出されるサイトカインなどの働きで炎症が起こり、炎症組織からの刺激で骨髄内での好中球が増産されて炎症巣に引き寄せられます。血液検査では、好中球は著増して1マイクロリットルあたり1万以上になることもあります。
細菌感染を防御する好中球には、コロナやインフルエンザなどのウイルスに対する殺菌作用はないとされてきました。しかし、最近の研究では好中球も早期にウイルスに反応してウイルス性肺炎の病巣に集まり、感染の防御に関係する可能性があるといわれています。細菌(ブドウ球菌など)、コロナ感染重症例では、好中球は減少から増加までさまざまで、リンパ球の減少が見られます。
好中球が1マイクロリットルあたり1500以下になる「好中球減少症」という病気があります。特に500以下になると、細菌などの感染に対する抵抗がなくなります。この病気の原因として、がん、白血病、貧血、ウイルス感染症、自己免疫疾患や人為的な薬剤、放射線治療などが挙げられますが、急性の場合なら数時間から数日で、慢性なら数カ月から数年も費やして発症することもあります。
好中球減少リスクのある人は定期的な血液検査を受けた方がよいでしょう。
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