「燃え尽き症候群」(バーンアウト)という病気があります。ある目標を達成するために強い責任感や使命感を持って努力していた人が、達成後に意欲を失って何もする気がなくなってしまう――というものです。
極度の疲労と倦怠感が典型的な症状で、長期間、強いストレスを受ける環境に置かれて心身の負担を受けていた状況が、大きく変化することで起こるといわれています。
そんな燃え尽き症候群が心臓疾患と密接な関係にあることがわかってきました。今年1月、欧州心臓病学会が発行している医学誌のオンライン版に「燃え尽き症候群の状態にある人は心房細動のリスクが高い」と発表されたのです。
1990~1992年に心房細動ではなかった男女1万1445人を23・4年にわたって追跡したところ、燃え尽き症候群のレベルが最も高いグループは、症状がほとんどないかまったくないグループと比べ、追跡期間中に心房細動を発症するリスクが20%高かったといいます。研究者は、「活力の消耗は炎症レベルの上昇や身体の生理的なストレス反応の増強に関連している。その状態が慢性的に続くと心臓の組織に深刻な影響を及ぼし、最終的に不整脈の発症につながる可能性がある」と説明しています。
他にも、「燃え尽き症候群の傾向がある人は、ない人に比べて心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患リスクが41%高い」というイスラエルの研究報告もあります。“燃え尽き度”の指標が高かった上位20%の人は、心血管疾患の発症リスクが79%も高かったといいます。
■ストレス、睡眠不足、肥満…
実際、燃え尽き症候群の原因にもなっている「ストレス」は心臓にとって大敵です。われわれはストレスを受けると、交感神経が優位になります。交感神経は活動時や緊張状態で活発になり、興奮に関わる神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増加させたり、血流を増やして血管を収縮させるため血圧の上昇を招き、心臓に大きな負担がかかるのです。高血圧の持病がある人は国内でも相当数います。そのような体質で交感神経が緊張を持続させられると、致命的な心臓疾患の発病率もより高まることになります。
ストレスによる「不眠」も心臓にダメージを与えます。睡眠時は交感神経の活動が低下して副交感神経が優位になり、心臓も“休息”できるのですが、睡眠不足の状態になると、交感神経が優位になっている時間が長くなります。ストレスを受けた時と同じくアドレナリンが大量に分泌され、心臓のダメージが増えてしまうのです。
また、ストレスや睡眠不足によって「過食」を招いてしまうと、肥満、高血糖、高脂血症につながります。これらはすべて代表的な心臓疾患のリスク因子です。ストレス、睡眠不足、過食と深いつながりがある燃え尽き症候群が心臓疾患リスクをアップさせるのもうなずけます。
燃え尽き症候群は、真面目で責任感の強い努力家タイプの人に起こりやすい傾向があるといわれています。ほかの研究でも心臓疾患は何事も徹底的にやらないと気が済まない性格の人がかかりやすいという報告があり、やはりリンクしているといえるでしょう。
心臓を守るためにも燃え尽き症候群を放置してはいけません。治療の原則は「十分な休息」とされているので、まずはやるべきことが一段落ついたらきちんと休憩をとり、夜はきちんと睡眠をとることを心がけましょう。ストレスを抱え込まないために信頼できる人に悩みを話してみるのもいいでしょう。
もちろん、専門家の治療が必要なケースもあるので、燃え尽き症候群の不安がある人は早めに心療内科を受診することが大切です。
心と心臓はつながっているのです。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」