Dr.中川 がんサバイバーの知恵

富士通はITで社員教育 がん治療と仕事の両立で大切な2つ

放射線なら仕事帰りに一杯も可能
放射線なら仕事帰りに一杯も可能

 皆さんの会社は、どうでしょうか。厚労省は2日、第1回「上手な医療のかかり方アワード」の表彰式を実施。その最優秀賞を受賞したブラザー工業には、職場ごとに事故や急病での対応表が掲示されているほか、がんや不妊の治療と仕事の両立についてガイドラインを設けていることが報じられました。

 中小企業の人は大企業の取り組みがうらやましく思われるかもしれませんが、がんと仕事の両立については、一人一人の意識の改革が欠かせません。

 厚労省が2015年に国立がん研究センターなど3つのがん専門病院について、がん診断時に働いていた950人を対象に調査したところ、診断を受けて離職したのは199人。このうち診断確定時が32%で、最初の治療までの間が9%です。このタイミングでの離職は、告知のショックによるもので、自殺リスクが高いことが知られています。

 治療開始後に辞めたのは48%に上ります。「職場に迷惑をかける」「仕事とがん治療を両立する自信がない」が主な理由ですが、とにかく「両立は可能」ということを頭に入れることが大切でしょう。2年前の年末に膀胱がんを自分で見つけた私は、12月28日だけ病休し、31日に退院。新年4日からは通常勤務に入っていました。

 早期だったことで、病休はわずか1日。決して私が特殊ではなく、どんながんであれ早期なら、ほぼ100%両立は可能です。進行がんでも、たとえば放射線は通院で治療を受けられ、施設によっては夜間診療も可能です。私がお手伝いしていた施設では、仕事帰りに放射線を受けて、一杯飲んで帰る人が珍しくありません。

 両立する上で大切なのは、「仕事を続けよう」という意思と「がんの治療を受けながら、仕事を続けたいということを会社に伝えること」の2点です。後者は連絡の問題ですが、意外とこれができていません。会社としては意思表示されないと支援できませんから。

 厚労省調査での離職理由も「自信がない」という患者のイメージが強く影響しています。別の内閣府調査でも両立困難の理由として、20%超が「会社が許してくれるかどうかわからない」と回答しているのは、やはり会社に意思伝達ができていないことの裏返しでしょう。

 中小企業は両立が難しい傾向がありますが、小さい企業ほど社員の離脱はマイナスが大きい。辞めないことは、自分にも会社にもプラスになります。

 富士通は今年1月から国内グループ7万人を対象にがん教育をスタートしました。私も監修に協力した教材の中身は、たとえばeラーニングで、がんの基礎知識から予防のための生活習慣、検診の重要性、仕事と治療の両立に至るまで幅広い内容をカバー。

 富士通はこの教材を自社利用にとどめず、社会貢献の一環で国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」に公開する予定です。公開はまだ先ですが、治療と仕事の両立には、がんを知ることが一番でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事