上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

花粉症対策を万全にして新型コロナと心臓疾患から身を守る

順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤前院長
順天堂大学医学部付属順天堂医院の天野篤前院長(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の騒動は過熱する一方です。本格的にシーズンが到来した「花粉症」に悩んでいる人にとっては、さらに悩ましい日々が続いているのではないでしょうか。マスクが品薄でなかなか手に入らないうえ、うかつに咳をしようものなら、いつにも増して周囲に迷惑がられてしまうからです。

 花粉症は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみの症状が表れる場合が多いのですが、中には咳が出る人もいます。花粉症のアレルギー症状を抑える飲み薬を服用していても、時間がたって効果がなくなってくると喘息のような咳が続くケースもあります。通勤電車や職場、公共の場で咳き込みたくない……そんな心配をしている人も多いでしょう。

 また、花粉症の人は目をこすったり、鼻をかんだりすることにより、手で顔を触る機会が多くなります。手がウイルスに汚染されていると、それだけ新型コロナウイルスに感染するリスクもアップすることになるので、さらに不安が募っているはずです。

 以前にもお話ししましたが、花粉症は心臓にも影響を及ぼします。海外では、「花粉症シーズンは心臓疾患の発作を起こすリスクが上昇する」という研究報告があります。花粉が飛散するシーズンは心臓発作による緊急処置の件数が平均5%アップ、中でも花粉飛散レベルがピークに達する5月は16%、6月は10%増加していました。詳細な要因ははっきりしていませんが、花粉によるアレルギー反応そのものではなく、花粉症の症状が心臓に負担を与えていると考えられます。

 花粉症による鼻水や鼻づまりで呼吸がしづらくなると、肺が十分な酸素を血液に取り込めなくなり、心臓から肺に流れる血流が制限されます。心臓は肺に十分な血液を送ろうとしてフル回転しなければならなくなり、負担が増えて不整脈が起こりやすくなります。

 ほかにも、花粉症によって免疫力が低下したり、症状にストレスを感じると交感神経が優位になる状態が続きます。人間は、交感神経が興奮すると心拍数が増加したり、血圧が上昇します。それだけ心臓にかかる負担が大きくなるのです。

■適切な薬を使えば症状は改善できる

 新型コロナウイルス騒動を乗り切るのはもちろん、心臓を守るためにも、花粉症対策は万全にしておきましょう。

 花粉症は比較的薬がよく効く疾患なうえ、いまは飲み薬だけでなく、さまざまな外用薬も揃っています。適切な薬を選べばしっかり症状を軽減できます。

 局所だけに作用するステロイド点鼻薬は、1日1回、鼻に直接噴霧するだけで効果があります。点眼薬も、かゆみを軽減する抗アレルギー点眼薬で作用時間の長いものも開発され、コンタクトレンズ装用者も安心して使用可能です。目鼻同時に1回使用で24時間効果が持続する貼るタイプの抗ヒスタミン薬も登場しました。

 新型コロナウイルス騒動の中で肩身の狭い思いをしないためにも、飲み薬を服用しながら、症状や状況に応じて、そうした局所外用薬を選択肢として考えるべきでしょう。自己判断で選んだ市販薬を使うのではなく、きちんと専門医にかかって適切な薬を処方してもらうことが大切です。

 ただし、花粉症の薬には交感神経を刺激する成分が含まれているものが多いので、心臓疾患を抱えている人は必ず担当医に相談してください。抗ヒスタミン薬の中には、不整脈の副作用が報告されているタイプもあるので注意が必要です。

 花粉症対策は新型コロナウイルスと心臓トラブルの対策にもつながるのです。

■好評重版 本コラム書籍「100年を生きる 心臓との付き合い方」(セブン&アイ出版)

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

関連記事