脳梗塞は病院選びが肝心 最新の血栓回収療法ができるかだ

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脳梗塞を起こしても元気に社会復帰するために知っておきたいこと(2)

 脳梗塞は、脳の血管が何らかの原因で急に詰まる病気だ。発症したとき、予後を少しでもよくするために知っておくべきことは? 聖マリアンナ医科大学東横病院脳卒中センター長の植田敏浩医師に聞いた。

 脳梗塞を起こしても、今は後遺症なく社会復帰できる率が高くなった。しかし、それは適切な対処があってこそ。まずは、疑うべき症状が見られれば1分1秒でも早く救急車を呼ぶ。次に、最新治療を実施している病院で治療を受ける。最新治療とは、2010年以降、国内で行われるようになった「血栓回収療法」だ。

■90%の確立で詰まった血管が再開通する

「カテーテル(細い管の医療器具)を脚の付け根から入れて、脳の血管に詰まった血栓(血液の塊)をからめとり、回収する治療法です」(植田医師=以下同)

 脳梗塞を起こして病院に運ばれると、CTやMRI検査が行われる。治療は3つに分かれる。もし脳の血管が詰まって脳細胞の死んでいる範囲が広ければ、血液をサラサラにする薬などの点滴治療。残念ながら「脳梗塞が進行して回復不可能」といわれる状態だ。

 一方、回復の可能性が見込まれるならtPA静注療法と血栓回収療法を行う、あるいは血栓回収療法だけを行う。

 tPA静注療法は血栓を溶かす薬「tPA」を静脈に点滴する。脳梗塞の標準的な治療法だ。

「しかし、発症から4・5時間以内と適応時間が短いため対象となる患者さんは限られます。再開通率も約30%と低く、太い血管が詰まる脳梗塞ではあまり効果は期待できません。血栓回収療法では再開通率90%(14年承認の最新の医療器具を使った場合)で、こちらの方が効果が高い。だから発症から4・5時間以内であれば、tPA静注療法と血栓回収療法の両方を行います」

 血栓回収療法の方が効果が高いなら、単体でもいいのでは? との疑問については、併用がいいか、単体がいいかは、はっきりしたデータが出ていないとのこと。併用、単体どちらも一長一短があり、聖マリアンナ医科大学では、tPA静注療法で少しでも血栓が小さくなれば血栓回収療法がやりやすくなること、tPA静注療法は簡単に行えるので血栓回収療法の準備中に開始できることなどから、両方行っている。

■治療直後から手足の麻痺が消えた患者も

 血栓回収療法は前述の通り、カテーテルを使って行う。ステント型の血栓回収デバイスを用いて脳内の血栓を回収する。現在4種類のデバイスが認可されており、植田医師らは最新のものを使用している。

 68歳の男性は左半身の麻痺と言語障害から発症2時間後に聖マリアンナ医科大学東横病院脳卒中センターへ救急搬送され、MRIで脳梗塞と診断。tPA静注療法と血栓回収療法が行われた。tPA静注療法では再開通に至らず、血栓回収療法で完全再開通となった。左半身麻痺は直ちに回復、2週間後には退院し自宅で過ごせるようになった。

「血栓回収療法では、50~60%の人が3カ月後に誰の介助も得ずに自立した生活を送れるようになります。本当にうまくいったケースでは、治療直後から、手足の麻痺や言語障害が完全回復しました」

 血栓回収療法は、発症後8時間まで有効。最近は、脳梗塞の広がり具合によっては発症後24時間でも有効だと分かってきた。しかし、進行が速ければ8時間以内でも受けられない。だから1分1秒でも早く、血栓回収療法を実施する病院にたどり着く必要があるのだ。

「血栓回収療法を24時間365日受けられる病院は限られている。もしものことを考え、事前に調べ、家族とも共有しておいた方がいい」

 救急隊員に希望を伝えれば、よほど遠くなければ希望通りの病院へ搬送してくれるだろう。

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