英首相はICUへ…新型コロナ肺炎はなぜ急激に悪化するのか

自身のツイッター(写真)では元気な姿を見せていたジョンソン英首相
自身のツイッター(写真)では元気な姿を見せていたジョンソン英首相(C)AP=共同

 新型コロナウイルス感染症が怖いのは症状が急変することだ。新型コロナ感染症の患者を受け入れている国立国際医療研究センターの大曲貴夫医師も「それまで話ができたのに、数時間で酸素が足りなくなり、人工呼吸器をつけないと助けられない状況になる」と先月の記者会見で語っていた。同様の事例が世界中で報告されている。なぜか。「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

 英国のジョンソン首相は検査入院した翌日の6日昼に自身のツイッターに「私は元気で、チームと連絡を取り合っている」と投稿したが、夜になって容体が急変。集中治療室(ICU)に運ばれた。幸い病状は持ち直したが、大騒ぎになった。志村けんさんは入院後9日で亡くなった。

 米国では退院が近いと思われていた患者が突然重症化してICUに運ばれるケースもあるという。

「入院数日で突然体調が悪くなり、呼吸困難になるケースがいくつも報告されています。可能性のひとつとしてサイトカインストームが浮上しています」

 新型コロナウイルスによる肺炎は、ウイルスによる直接的な肺の障害だけで起きるわけではない。ウイルスを排除するための免疫組織が暴走し、その結果としてあらわれる炎症が、肺の細胞に強いダメージを与える場合もあるという。

「このように、病原体の侵入や薬の投与などが引き金となって、サイトカインが過剰に産生されて起きる異常事態をサイトカインストームと呼びます」

 サイトカインとは細胞から分泌されるタンパク質のこと。目標とする細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こす。その中でさまざまな炎症症状を引き起こすのが炎症性サイトカインだ。

「炎症性サイトカインにはIL―1、IL―6、TNF―αなどさまざまな種類があります。本来は病原体を攻撃するなどして身を守る働きがあるのですが、血液中にこれらの炎症性サイトカインが大量に放出されると、その作用が全身に及び、血液凝固や血圧の上昇などが起きます。最後には多機能不全に至り、ひどい場合には致死的な状態にまで陥るのです」

■サイトカインストームとは?

 免疫には、生まれたときから持つ「自然免疫」と、生後に病原菌にさらされて得られる「獲得免疫」がある。自然免疫は体に入ってきた病原体すべてに反応し、排除しようとする。つまり未知のウイルスである新型コロナに対しても自然免疫は働くのだ。ところがそのウイルスが自然免疫組織のどの部分を刺激するかによって、さまざまなサイトカインが分泌され、場合によってはサイトカインストームを引き起こすと考えられる。

「ただし、別の見方もあります。急激に悪化したように見えるのは、患者はもちろん周囲も、病状の悪化に気づいていなかっただけではないか、というのです」

 事実、症状がないと思われる患者の肺をCT検査したところ、肺炎症状を起こしていた症例が複数報告されている。

「通常の呼吸量では気づきませんが、肺の能力が劣っている可能性が考えられます。その場合、階段を上るなど少し強めの運動をすると息切れが見られることがあります」

 気になるのはウイルスの強毒化だ。中国・武漢で見つかった新型コロナウイルスが世界保健機関(WHO)に報告されて3カ月が過ぎた。この間、ウイルスが急激に変化した可能性はないのか。

「インフルエンザやC型肝炎やHIVは遺伝子変異をしやすいのですが、新型コロナウイルスは変異しにくいことがわかっています。それは、新型コロナウイルスには、遺伝子の複製ミスをある程度まで修復する能力を持っているからです」

 ただし、修復が及ばない領域はある。それが、新型ウイルスが細胞に侵入するときの入り口(受容体)を選択する領域とそれを支援する領域だとの見方もある。

「新型コロナウイルスは感染先が少なくなってくると、生き延びるためにいずれはこの2つの領域を変化させて新たな受容体と結合するように進化するでしょう。従来の免疫組織からの攻撃を逃れるためです。しかし、感染拡大できているいまはその必要はありません」

 新型コロナウイルス感染症は、感染者の80%が軽症か無症状ということばかりが強調され軽い病気に思われがちだ。しかし、20%が重症肺炎となり2%が死に至る怖い病気であることを忘れてはいけない。

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