専門医が教える パンツの中の秘密

女性医師が40年かけ開発 “護身用コンドーム”を覚えているか

2010年南アフリカW杯 開幕戦を中継するパブリックビューイングで盛り上がる人々
2010年南アフリカW杯 開幕戦を中継するパブリックビューイングで盛り上がる人々(C)日刊ゲンダイ

 2010年に南アフリカでサッカー・ワールドカップ(W杯)が開催された時、「レイプ撃退用コンドーム」という女性の護身用グッズがネット情報などで話題になったことをご存じでしょうか。

 当時、南アフリカは治安が悪く、2006年度のインターポールの調査によると、何と17秒に1人の割合で女性がレイプされている状況だったのです。そんなところを世界中のサッカーファンが訪れるわけですから、治安の問題が心配されたのです。実際には大きな問題はなかったようですが、「Rape―aXe(以下、RX)」という名称のレイプ撃退用コンドームが、W杯開催中に約3万個、無料配布されたというニュースが非常に印象に残っています。

「RX」はラテックス製で、コンドームのような形をしています。使い方は、女性がちょうどタンポンのように、このコンドームをあらかじめ腟内に挿入しておきます。そして外出し、運悪く人けのない場所で見知らぬ男性に襲われたとします。男性は大きくなったペニスを無理やり、女性の腟内に挿入します。すると男性のペニスに激痛が走り、もだえ苦しむといったことになります。

 そうです。「RX」の内側には鋭いノコギリ歯のような返し(トゲ)が付いているのです。痛みに驚いたレイプ犯はペニスを腟から引き抜きますが、トゲがガッチリ食い込んだ「RX」はペニスに付いたままです。その隙に女性は逃げたり、反撃することができるのです。レイプ犯が逃げ去ってしまっても心配はいりません。医者に駆け込むしか「RX」を取り外す方法はないからです。これによってレイプ犯は確実に特定され、逮捕されるというわけです。取り外された「RX」は、裁判の証拠としてDNA鑑定に使用することもできるのです。

 実は、この優れモノ「RX」はソネット・テーラーズという女性医師によって開発されました。きっかけは1969年のある夜更けのこと。テーラーズさんはレイプ被害に遭ったひとりの女性と向き合っていました。涙が頬を伝い、恐怖に震えながら彼女はこう言ったそうです。「私のあそこに歯が付いていればよかったのに」――。そこからテーラーズさんは私財をなげうち、約40年かけて完成させたのです。

「RX」はW杯終了後、1個2ドル(約170円=当時)で販売予定とされていましたが、その後、レイプ犯逮捕にどれくらい貢献したかは伝わってきていません。このようなグッズが必要とされない世の中になることを願うばかりです。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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