Dr.中川 がんサバイバーの知恵

手術延期続々 放射線治療を考えるがんの種類とタイミング

写真はイメージ
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 このまま治療が遅れると、オレの命はどうなるのか。新型コロナウイルスで院内感染が広がった医療機関では、手術などの延期が相次ぎ、患者さんの間で不安が広がっています。およそ8割の手術延期が報じられたがん研有明病院のケースは、決して他人事ではないのです。

 そんな現状を裏付ける調査結果も発表されました。女性のがん患者が参加するネット患者会「ピアリング」が先月19~25日にネットで1101人に調査したところ、手術延期などの影響を受けた人は約4分の1に上ったそうです。

「がん治療に関して影響を受けている」は、272人(24.7%)。その中身(272人が複数回答)を具体的にみると、「(化学療法など)治療の遅延」が46人、「検査の遅延」が29人、「乳房再建の遅延」が27人、「手術の遅延」が19人と遅延の状況は手術にとどまりません。医療機関側の事情による「診察の延期」は41人ですが、「感染への不安から、自ら通院予定を延期」した人も57人います。

 では、もし手術延期を通告されたら、どうすべきか。患者さんの不安はそこだと思います。

 それぞれの事情によって異なるので一概にはいえませんが、大筋の考え方として、延期でも、手術が行われるなら、それぞれのスケジュールで手術を受けるべきだと思います。ただし、3カ月以上など大幅に遅れるなら、放射線治療の可能性を主治医に相談するといいでしょう。

 放射線治療あるいは化学放射線治療の可能性を確認すべきなのは、がんの種類でいうと、頭頚部がん、食道がん、肺がん、子宮頚がん、前立腺がんなどです。

 女性に多い甲状腺がんと男性の前立腺がんは、穏やかなタイプがあり、そもそも手術を急ぐ必要がないことも珍しくありません。韓国では、手術不要な甲状腺がんを手術したことで、検査による甲状腺がんの掘り起こしが社会問題になったことがあります。前立腺がんで穏やかなタイプなら、治療せず血液検査でマーカーのPSAをフォローする待機療法があることが、手術を急がなくていいことを物語っているでしょう。

 でも、放射線治療はどうなのか。女優の岡江久美子さんが63歳の若さで新型コロナによる肺炎で亡くなったとき、放射線治療による免疫力の低下が取りざたされました。読者の中には、その関係を不安視される方がいるかもしれません。

 その点について日本放射線腫瘍学会は「早期乳がん手術後に行われる放射線治療は、体への侵襲が少なく、免疫機能の低下はほとんどありません」と表明。一般的な放射線治療についても、「からだの免疫力が大きく低下するようなことはほとんどありません」としています。ぜひ安心して主治医に相談してください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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