「肺炎」がこれまで以上に注視されています。2011年から16年まで日本人の死亡原因の3位だった病気ですが、新型コロナウイルスによる重症肺炎で亡くなる人が相次いでいることでさらにクローズアップされている状況です。
そもそも肺と心臓は“セット”といえる臓器ですから、肺炎は心臓疾患とも深く関係しています。心臓は血液を全身に送り出す働きがあり、全身に酸素や栄養を届けています。全身から不要な二酸化炭素や老廃物を受け取った血液(静脈血)は、心臓に戻った後で肺に送られ、二酸化炭素と酸素の交換が行われます。肺でガス交換を終えた新鮮な血液(動脈血)は再び心臓に戻り、全身に送られるのです。いずれも血液を循環させるために欠かせない役割を担っているわけですから、どちらかでトラブルが起これば互いに悪影響を与えます。
とりわけ、心不全などで心臓の働きが落ちている場合、肺炎になりやすくなります。心臓のポンプ機能が衰えると、肺から心臓に血液を送る際にそれだけ大きな力が必要になり、肺静脈の血圧が高くなります。すると、肺にうっ血(むくみ)が起こり、細菌やウイルスが繁殖しやすくなるのです。
しかも、心臓の状態が悪い人は肺炎になった時に重症化しやすい傾向があります。細菌性肺炎では、繁殖しやすくなった細菌が増えることで全身の消耗が進んだり、播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こすケースも見られます。
DICとは、全身の血管内で血液凝固反応が起こって微小血栓がたくさんできることで臓器不全を招いたり、血小板が減少して出血しやすくなる病態です。
ウイルス性肺炎の場合、肺に炎症が起こることで発熱はしますが、細菌性のように細菌が出す“毒素”が全身に悪さをするわけではありません。ウイルスによって炎症を起こした箇所に免疫システムが反応し、炎症性サイトカインが過剰に産生されて全身の臓器にダメージを与えてしまうのです。ただそれ以上に、肺の働きが落ちてガス交換が不十分になり、低酸素状態が長く続くことで生命維持に危険が生じてしまうのが何より深刻な問題です。
■肺炎がきっかけで心房細動になる可能性も
いずれにせよ、心臓の働きが落ちている患者さんには、普段から肺炎に気をつけるよう指導しています。
反対に、肺炎になると心臓の機能も落ちてしまいます。肺に炎症が起こると熱が出て全身が消耗し、心臓が普段より余計に働かなければいけなくなって負担が増大するからです。さらに、肺炎によって血液の成分が壊れて正常でなくなったり、細菌性の場合は白血球が増加して全身にさまざまな炎症を招きます。そうしたいくつもの要因で心臓に負担がかかり、もともと心臓にトラブルを抱えていると状態が悪化してしまうのです。
心臓にとくに問題がない人が肺炎にかかることで心臓疾患を発症することは、まずありません。ただ、高齢者の場合は肺炎による発熱がきっかけになって、心房細動を招くケースはありえます。熱が出ると頻脈になり、脈が異常に速くなると心臓に負担がかかって、とくに高齢者では心房細動の要因になるのです。また、頻脈によって肺にうっ血が起こり、さらに心臓の機能が低下する悪循環に陥ります。
肺炎によって心房細動を発症し、心臓内で血栓ができやすくなることで脳梗塞につながるなど、さらなる合併症を引き起こすリスクが高くなる可能性があるのです。
若い人が肺炎にかかっても軽症ですぐに治るケースがほとんどなのは、まだ心臓が元気だからです。逆に高齢者の肺炎がなかなか治らずに重症化してしまうのは、加齢によって心臓に問題を抱えている人が多いからだといえます。
心臓の健康を維持することが肺炎の予防につながり、肺炎にかからないよう気をつけることが心臓を守るのです。