妊婦がパンやパスタを食べると子どもの自閉症リスクが上昇

カナダやアメリカ産には除草剤グリホサートが使われている(品薄のスーパーの陳列)/
カナダやアメリカ産には除草剤グリホサートが使われている(品薄のスーパーの陳列)/(C)日刊ゲンダイ

 小麦粉やホットケーキミックスなどがスーパーで品薄状態になっているが、小麦の収穫作業の効率を上げるためにカナダやアメリカで使われている除草剤(農薬の一種)グリホサートに、子どもの自閉症スペクトラム症のリスクを上げる可能性があることが分かった。5月11日に米国科学アカデミー紀要の電子版に研究結果を発表した千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授に話を聞いた。

 自閉症スペクトラム症(以下、ASD)は発達障害の一つで、社会的なコミュニケーションや他人とのやりとりが苦手で、強いこだわりを持つことを特徴とする。

「ASDの原因ははっきりと分かっていませんが、多くの疫学研究で農薬をはじめとする環境化学物質などがASDの発症に関係している可能性が指摘されています」

 世界5大医学雑誌の一つ英BMJ誌には昨年4月、米カリフォルニア州の農業地帯でASDの子ども2961例を対象に、農薬暴露と自閉症リスクとの関連を人口ベースの症例対照研究で検討した結果が掲載。それによると、グリホサートなどの農薬に暴露された妊婦から生まれた子どもがASDを発症した割合が、暴露されなかった妊婦から生まれた子どもの割合よりも高かった。

■カナダ産・米国産小麦の90%以上から検出される農薬が原因

 橋本教授が行ったのは、グリホサートとASDの関係についての動物実験だ。グリホサートを含む飲料水を、妊娠マウスに離乳期(生後21日)まで与え、生まれた仔マウスを調べた。

「すると、仔マウスがASD様の行動異常を示す結果が出たのです」

 グリホサート入り飲料水を飲ませた妊娠マウスから生まれた仔マウスのふんを調べると、そうではない仔マウスに比べて、腸内細菌叢のバランスが乱れていた。さらに「可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH)」というタンパクや遺伝子の発現が、脳の前頭皮質で有意に高かった。

「腸内細菌叢のバランスの乱れは、ASDをはじめさまざまな病気に関係していることは、複数の研究で報告されています。sEHの発現が高いということは、体内で炎症が起こっていることを意味します。疫学研究から、妊婦の体内で炎症が起こると子どものASDなどの発達障害、統合失調症などのリスクが上がることも示唆されている」

 橋本教授は、グリホサート入り飲料水を飲ませた妊娠マウスに、体内の炎症を強力に抑えるsEH阻害薬を妊娠期から離乳期まで投与した結果も調べた。すると、仔マウスのASD様の行動異常が抑制。これは、体内の炎症とASDは関係していることを示す。

 農水省の調査では、カナダ産・アメリカ産の小麦の90%以上で、グリホサートが定量限界(対象の濃度を決定できる最小量)を超えて検出。農民連食品分析センターが昨年、小麦粉やパスタ、食パンなど小麦加工品のグリホサート残留を調べたところ、多くの小麦加工品からグリホサートが検出された。ごく一般的に手に入るものなので、小麦製品やパンを日常的に食べている人は、グリホサートを日常的に取っているとも言える。なお、日本では小麦についてグリホサートの収穫前散布は認められておらず、農民連食品分析センターの調査でも、国産小麦を使用している商品からはグリホサートが検出されなかった。

 橋本教授は「今回の実験結果は動物実験であり、妊婦のグリホサートの摂取が子どもにASDを引き起こすという結論は出せません。関連を調べるには、妊婦を対象とした大規模な追跡調査が今後必要」と言うが、全く無関係とも言えない。グリホサートは、発がん性も指摘されている。

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