【Q】このところ目の乾きがひどく、疲れやすいと思っていたら、物が二重に見え始めました。内科では甲状腺異常と言われました。治療すれば治るのでしょうか?とても心配です。(35歳女性)
【A】症状からすると甲状腺眼症の疑いがあります。甲状腺の病気に伴い、眼球が前方に突出し物が二重に見えてしまうなどの症状が表れる炎症性の病気です。中年以降に見られ、決して珍しい病気ではありません。バセドー病の25~50%に見られ、遺伝因子、環境因子、あるいは何らかの自己免疫異常が生じて発症します。上眼瞼後退、眼瞼浮腫、眼球突出、涙液分泌低下、結膜・角膜障害、複視、視力低下など多彩な眼症状を呈します。この病気が甲状腺の異常に関連していることは間違いありませんが、必ずしも甲状腺ホルモンの増加ばかりを示すわけではありません。というのも甲状腺関連の抗体が増えるだけの状態でも発生するからです。
また、治療で甲状腺ホルモンを正常範囲に収めることに成功しても、複視などの眼症状が消えないことも少なくありません。
診察で眼窩(目玉が入っている頭骨前面のくぼみ)のCTやMRI画像で外眼筋が腫れていることを確認し、甲状腺ホルモン異常かまたは甲状腺関連の抗体の異常のいずれかがあれば、甲状腺眼症と診断されます。軽症であれば、目に冷湿布を適用したり涙液を補ったりすれば症状が軽くなるかもしれません。サングラスの着用で、太陽と風の両方からの眼表面保護に役立ちます。乾きや傷を和らげる点眼も使います。目が腫れて苦しいならベッドの頭の位置を少し高くすると瞼の浮腫を抑えることができます。物が二重に見える場合にはプリズムメガネを処方できることがあります。外眼筋と眼周囲組織の腫れはステロイド内服や局所注射で改善できるかもしれません。それでも症状が改善しない場合は瞼や眼筋への外科的処置を検討します。これは斜視手術が専門で、甲状腺眼症の治療が得意な一部の眼科医だけが行う手術です。その目標は、正面よりわずかに下方を見た時に単一の視界を達成することです。日本人ではまれですが、甲状腺眼症で眼球後方の視神経に圧迫が加わって、視力が脅かされると、眼窩減圧術と呼ばれる眼窩骨を緩める手術も行われます。
内科での甲状腺ホルモンの調節も重要です。過活動性の甲状腺の治療後には、甲状腺機能低下症になる危険性が高いです。甲状腺眼病が悪化しないようにするには、適切な甲状腺ホルモン補充療法も不可欠です。
みんなの眼科教室 教えて清澤先生