病気を近づけない体のメンテナンス

口腔<上>健康寿命に直結 “舌筋トレ”で口の虚弱を防ぐ

写真はイメージ
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 近年の研究で、口の力が強い人ほど健康長寿は長くなり、口の力が弱い人ほど要介護になりやすく、死亡率も高いことが分かってきた。「口の力」とは「口腔機能」のことで、簡単にいえば「食べる機能」だ。

 加齢とともに食べる機能が低下していく状態を「オーラルフレイル(口の虚弱)」という。うまく噛めない状態が続くと、軟らかい物ばかり食べるようになる。すると噛む機能が低下し、ますます噛めなくなるという負のスパイラルに陥る。その結果、食事が楽しくなくなり、食欲が低下する。そうなると低栄養となり、全身の機能が低下する「フレイル(虚弱)」に至ってしまうのだ。

 歯科医として高齢者のフレイルの予防と回復に取り組んできた東京都健康長寿医療センター・歯科口腔外科の平野浩彦部長が言う。

「オーラルフレイルを放置していると、そうでない人と比べて近い将来に全身が衰えるリスクが高まります。身体的フレイルになるリスクは2・4倍、筋肉量や筋力が低下するサルコペニアは2・1倍、要介護認定になる人も2・4倍で、総死亡リスクは2・1倍高まるとされています」

 オーラルフレイルを防ぐには、危険な老化のサインである「ささいな口の不調」を見逃さないこと。具体的には「口が渇きやすい」「飲み込みにくい」「むせる、食べこぼす」「滑舌が悪くなった」「軟らかい物を好んで食べる」「食欲がない、少量しか食べない」など。これらの不調は50代くらいから顕著に表れてくるという。

 口の機能を衰えさせないで、改善させるには「口の筋トレ」が有効。

 特に「舌」はすべて筋肉でできていて、飲み込みや噛み砕き、滑舌にも大きく関わるパーツになる。舌を鍛えることで、口全体の動きが活発になり、機能の改善につながるのだ。

「舌を積極的に動かす『舌筋トレ』の基本は、『舌の存在を意識すること』です。腹筋や太ももなどの筋肉を鍛える時も『その部分を意識し、どう動いているかを確認しながら筋トレするといい』と言われるのと同じです。舌筋トレの中でも、最もやりやすく効果的なのは『ブクブク&ガラガラうがい』です。単なる『うがい』と甘く見てはいけません。これは舌から口全体の筋肉をフル活動して、凄く巧妙なことを口腔内でやっているのです」

 それでは平野部長が勧める6種類の「舌筋トレ」のやり方を紹介する。

■ブクブク&ガラガラうがい

①水を口に含み上を向き、喉の奥で15秒ほどガラガラして水を吐き出す。舌の奥の部分を意識しながら、しっかりガラガラするのがポイントだ。②水を口に含み、頬全体を膨らませて5回ほどブクブクして水を吐き出す。頬の内側の筋肉を意識して使うように、勢いよくブクブクする。

「無理がなければ意識して長めにやったり、回数を多くやるようにしてください。毎日、食前や食後に1日3度やる習慣をつけるといいでしょう」

■舌のぐるぐる筋トレ

①舌を前に出す。②出した舌を左右に動かす。③舌で唇をゆっくりなめる。舌を上下左右と限界まで出して、ゆっくり動かすのがコツ。①~③を一度に3回繰り返す。

■あーんー体操

①ゆっくり大きく口を開けて「あー」と声を出す。左右の親指と人さし指で、耳たぶの下の「咬筋」とこめかみの「側頭筋」の膨らみを確認しながら行う。②しっかり口を閉じて口の両端に力を入れながら、舌を上顎に押し付けるようにして奥歯を噛みしめ、「んー」と声を出す。①と同じように咬筋、側頭筋を確認しながら行う。①と②を一度に3回繰り返す。

■舌のコロコロあめ玉

①舌を左右のどちらかの頬の内側に強く押し付ける。②自分の指で口の中の舌先を頬の上から押さえる。③それに抵抗するように、舌を頬の内側に10回押し付ける。①~③を一度に左右、3回繰り返す。

■『イアエイウ』ストレッチ

①噛みながら「イー」と、頬や首に張りを感じるまで口角を上げる。②次に、「アー」と言いながら口を大きく広げる。③次に「エー」と舌を前に出しながら発声する。④「イー」と①と同じくする。⑤「ウー」と口をしっかりすぼめる。①~⑤を一度に3回繰り返す。

■ほっぺたふうせん

①頬を膨らませて舌を上顎に押し付け、口から息がもれないようにこらえる。②次に、口や鼻から息がもれないように口をすぼめる。①と②を一度に5~10回繰り返す。

 これらの舌筋トレを日常的に行うと、3~4週くらいで飲み込みや滑舌が改善されていくのを実感できるという。

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