Dr.中川 がんサバイバーの知恵

4月は必要量の8割に 輸血不足をカバーする2つの選択肢

可能な人は献血を
可能な人は献血を(C)日刊ゲンダイ

 新型コロナウイルスの影響で、がん手術の延期が相次ぎ、患者さんに不安が広がっています。実は、その手術に必要不可欠な輸血用血液が足りないことをご存じでしょうか。

 輸血用血液は、多くが献血でまかなわれます。過去に起きた血液製剤による医療事故の教訓をふまえ、今では精密な検査や処理がなされていて安全性は高い。まれにアレルギー反応などを起こすこともありますが、輸血による感染症や合併症を起こすリスクはほとんどありません。

 日本赤十字社の献血センターやイベント会場での献血バスなどで献血したことがある方もいるでしょう。それが新型コロナの外出自粛で献血する方が激減したことが原因です。

 同社関東甲信越エリアの場合、4月1~20日に400ミリリットル献血を必要とする人数は6万7265人でしたが、協力者数は5万2959人。1万4000人分、2割以上も下回っています。献血協力のアナウンスがなされた5月は減少幅が小さくなったとはいえ、それでも20日間で約7500人分が足りません。

 緊急事態宣言が解除され、今後、献血に協力される方は増えるかもしれませんが、献血者数の低下は2月から見られていたため、十分な量にはすぐには回復しないでしょう。宣言解除後も、手術件数が8割程度にとどまっている要因は、輸血用血液の不足も関係していると思います。

■本格的な設備があれば自分の血をためる

 では、どうするか。自己血輸血です。この方法は文字通り、手術を受ける前に計画的に自分の血を採血してためておき、輸血します。一般的には手術内容と手術予定日から逆算して、造血剤を服用してもらいながら週に1回200~400㏄を採血。その繰り返しで、大掛かりな手術には2000㏄を用意します。

 院内に輸血部を構え、冷凍保存や遠心分離などの専門設備があれば、年単位で保存が可能です。しかし、そんな設備がなければ、冷蔵保存のため1カ月で有効期限が切れてしまいます。

 本格的な設備がある施設での手術なら、自己血輸血で手術に備えるのはいいでしょうが、患者さんの健康状態によって準備できないこともあるのです。たとえば貧血の方は、そもそも必要十分な採血が困難でしょうし、ほかにも腎機能が悪い、消化管出血があるといったケースは難しい。

 そうすると、もうひとつの選択肢は、放射線になります。肺がん、食道がん、前立腺がん、子宮頚がんなど多くのがんで、手術と放射線の治療効果は同等です。手術の延期や輸血用血液不足が問題視されるだけに、放射線治療はもっと検討されていいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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