顔をさらすのが怖い…1億総マスク依存症を精神科医が懸念

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 緊急事態宣言が解除され、元通りの日常がやってきたとはいえ、いつまた新型コロナウイルスが襲いかかってくるかわからない。感染予防のためにも、まだまだマスクは必須である。しかし、このまま漫然とマスクを着けた生活を続けると、新型コロナの流行が過ぎ去っても、マスクを着けないと不安な気持ちになる「1億総マスク依存症」の時代が訪れかねない。

「『マスク依存症』という病名が初めて使われたのは、一説によると2010年ごろ。中高生から始まったこの現象は、思春期にありがちな他人の目を過剰に意識しすぎるという一過性のものに終わらず、たちまちのうちに大人の間でも目立つようになりました」

 こう解説するのは、アルコールや薬物など、さまざまな依存症患者の治療にあたる榎本クリニックの深間内文彦院長。深間内院長によると、マスク依存症の患者の中には家で家族といるときにもマスクを着用し、自分の部屋でひとりになれたときにのみ、ようやく外す人も少なくないという。

「昔はマスクをしてのコミュニケーションは相手に失礼にあたると考えられていましたが、最近は『風邪をひいている』と言えば特にとがめられないようになりました。いわば、マスク着用は公衆衛生上のお墨付きをもらえるようになったわけです。そこにきてこのコロナ禍で、マスクは誰もが着けていることが当たり前のアイテムになりました。結果として、このコロナ禍がマスク依存の患者数を加速度的に増大させることは、もはや間違いがなさそうです」

 いまのマスク着用はコロナウイルスからお互いを守るためだが、それ以前からのマスク依存は何が原因だったのだろうか。

「依存症という名前が付くのは、そうすることで得られるメリットが本人にあるということです。その筆頭に来るのは、安心感や自己防衛。他人からの視線や距離、人間関係の煩わしさから自分を守っている。他人が自分のテリトリーに入ってきてほしくないという気持の表れが、マスクなのです」

 マスクをしていると表情が周囲から分かりづらい。しかし、マスクを好んで着ける人にとっては、そのことこそがマスクを着けるメリットとなる。「人と話したくないというアピールになる」「人の視線をかわせる」「人に合わせて表情をつくるのが面倒」などの理由が、マスクに依存する理由としてはあげられると、深間内院長は解説する。

■キャラ変のアイテムになる場合も

「また、それとは矛盾するようですが、マスクには、『勇気が出る』『ふだん言えないことも言えるようになる』、つまりは『キャラを変えられる』という効能もあります」

 いまは素のキャラのままでは生きづらさを感じる、という人は珍しくない。SNS上でいくつものキャラを使い分けるのも普通のことになった。同じことを現実世界で可能にするのがマスクというわけだ。

「必要ない場所でのサングラスや、顔にかかる長髪と同じように、マスクは素のままの自分を隠してくれる。しかもマスクは取り外しがしやすく、医療上のお墨付きもついている。ある意味で、これほど優れたアイテムはないですよね」

 深間内院長は、マスク依存症の患者にとって、マスクは必ずしも悪いものではなく、それがあるから引きこもりにならずに済んでいる、という効能もあるのだと話す。

「そういった人たちは、リアルな他人との付き合いは気が重いけれど、かといってひとりでいるのは寂しいという、アンビバレンツな気持ちを心の中に持っています。マスクはそうした人も外出が可能になる薬のようなものでもあります。いまはマスクを必ずしなければならない時期ですが、いつかはこの状態も過ぎ去ります。もしコロナ禍が終わっても、マスクがないと人前に出られないと感じたら、それは単なるマスク依存ではなく、社交不安障害などの精神的な問題から来ている可能性もあります。マスク依存だけにとどまらない、精神的な問題が明らかになり、治療につながる場合もありますから、一度、精神科、心療内科などの診察を受けることも検討してみてください」

 心理的にもダメージの大きいコロナパニック。いまは、マスクは命を守るために必須のアイテムだが、家の中でも取り外せない状態になったら、自分の心の健康も、きちんとチェックする必要があるだろう。

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