第2波に備えよ 新型コロナを徹底検証

<12>コロナの謎を解く新たな免疫の概念「訓練免疫」とは?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 生命科学は日進月歩。特に研究が盛んな分野では、教科書に載っていることですら、数年経てば時代遅れになる。事実に基づき新しい仮説が提唱され、多くの研究者がその仮説を検証していく。

 ウイルスに感染した動物が回復する機構も不明な点は多く、新しい仮説が絶えず提唱される。今回は、比較的新しい免疫の概念である「訓練免疫」を紹介する。

 ウイルスに感染すると、最初に自然免疫が発動する。最初の防衛ラインである自然免疫が突破されると、獲得免疫が作動する。獲得免疫は、抗体による「液性免疫」とTリンパ球による「細胞性免疫」に分けられる。どの免疫機構がウイルス感染からの回復に重要であるかは、ウイルスごとに異なる。

 人のデングウイルスや猫のコロナウイルスなどは、抗体が悪さをすることが知られている。このようなウイルスに対しては、抗体(液性免疫)を誘導するワクチンが逆効果になる。従って、これらのウイルスに対しては、液性免疫ではなく、自然免疫や細胞性免疫を強く誘導するワクチンの開発が求められている。

 今回の新型コロナウイルスは、「液性免疫がどの程度有効なのか」「悪さをすることはないのか」は、よく分かっていない。しかし、最初の防衛ラインである自然免疫が重要であることは間違いない。

 ウイルスに感染すると、感染門戸の細胞や免疫細胞から、抗ウイルス物質が放出される。これらの物質は、ウイルスの種類を問わず効果を発揮する。つまり、あるウイルスに軽く感染し回復すると、同じウイルスのみならず、異なるウイルスに対する抵抗性も一時的に高まると考えられる。しかし、話はウイルス同士だけではない。

 結核のワクチンであるBCGは、ウシの結核菌を弱毒化して得られたものである。

 このワクチンは、「細胞性免疫」を誘導して結核を防いでいるのであるが、「自然免疫」も高めている。このBCG接種により、結核菌以外に、さまざまなウイルスへの抵抗性が高まることが報告されている。

 さらに重要なことは、これまで免疫の「記憶」は、獲得免疫にしか起こらないと考えられてきたが、自然免疫でも長期間の「記憶」が成立することが最近分かってきた。最新免疫学ではこれを「訓練免疫」と呼ぶ。麻疹ワクチンなども「訓練免疫」を誘導する。

 都会では、人々はウイルスにさらされる機会も多い。感染成立以下のウイルスに何度もさらされているうちに、自然免疫が訓練され、未知のウイルスに対する抵抗性も高まるということも、あり得ない話ではない。

(京都大学ウイルス・再生医科学研究所・宮沢孝幸准教授) 

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