独白 愉快な“病人”たち

下肢静脈瘤の松岡きっこさん 手術してスカートを履けるように

松岡きっこさん
松岡きっこさん(C)日刊ゲンダイ
松岡きっこさん(女優・73歳)=下肢静脈瘤

 50歳目前で、ふくらはぎに血管が浮き出ていることに気づきました。ある日、突然という印象でしたね。そのとき思ったのは「ああ、母と同じだ。嫌だな」でした。

 母の脚に血管が浮き出ていたのを見たのは私が30歳ぐらいのときです。でも当時は「下肢静脈瘤」という病名もなければ、それが病気だとも知らず「ある程度の年齢になればああなるのかな」ぐらいの認識だったんです。

 自分が同じようになってから、何となく「下肢静脈瘤」という病名を知り、症状から「これだな」と察したのですが、痛みがないので病院に行くという発想になりませんでした。

 そもそも下肢静脈瘤は、脚の皮膚のすぐ下にある血管の逆流防止弁が壊れて、本来心臓へ押し上げられる血液がうまく上がらず、どんどんたまって血管が太くなり、皮膚の表面にこぶのようにボコボコと浮き出てしまう病気です。命に関わるようなことはない中高年にはありがちな病気ですが、後から聞いた話では、ひどくなると皮膚が壊死して最悪の場合は切断しなければならないケースもあるそうです。

 そんな病気だとはまったく知らない私は、痛みや不具合がないのをいいことに10年以上放置していました。

 ただ見た目が悪いので嫌だなと思うのと、人に見られると恥ずかしいので長めのスカートやパンツ姿で隠しながら生活していました。

 もちろん、主人にも隠し通していました。何しろ主人は私に対して過保護というか、私がしっかりしていない分、何かにつけて指示やジャッジをしてくれる人なのです。

 余談ですけれども、たとえば私の仕事でも「これはいい、これはやめなさい」と決めるのはいまだに主人ですし、家の中でも「ほら、ちゃんと膝を揃えて座りなさい」と注意されます。「普段の姿勢が外でも出るから」という理由で、ジーンズ姿でも容赦ありません。ちょっと厳しいとは思いますけれど、正しいことを言ってくれているので、特に嫌だと思っていませんけれど……(笑い)。

 そんなふうにいろいろと口うるさいものですから、あんな脚を見せようものなら何を言われるかわからないとひた隠しにしていたのです。

■夜中に脚がつることもなくなる

 そんな折、主人とゴルフに行った夏のことでした。暑かったので主人に隠れてこっそりパンツの裾を折り上げて、すぐに戻そうとした瞬間、運悪くその姿を見られてしまったんです。ふくらはぎのボコボコを見て「何それ」と言うので、「下肢静脈瘤っていう病気みたい」と白状すると、「汚い。おかしいよ。病気なら病院に行きなさい」と言われたんです。

 それから間もなく、とあるテレビ番組の打ち合わせ終わりの余談で、ディレクターさんから「実は別の番組で下肢静脈瘤のタレントさんを探しているんですけど誰か知りませんか?」と尋ねられたのです。

「私、そうですけど」といって脚を見せると、「番組で扱ってもいいですか?」となって、初診から手術までを番組で扱っていただくことになりました。

 主人は「ボクも行く」と、番組で用意してくれた病院に同行し、診察室にも一緒に入りました。超音波で血液の流れる音を聞き、正常音との違いを確認。手術について説明を受けました。鼠径部からカテーテルを入れて、レーザーで弁の壊れた静脈を焼いて塞ぐという手術で、両脚でも10~15分、滞在時間約30分で歩いて帰れるとのことでした。「ボク、立ち会います」と言う主人に、医師もちょっと驚いていましたね(笑い)。

 手術は2013年10月でした。うっすら麻酔がかかっていたので意識はあるけれど、痛みは感じない状態でした。術後も鼠径部の傷が少し痛いくらいで、本当に楽。帰る頃には、もう脚のボコボコはほぼ消えていたように記憶しています。

 ただ、術後3日間は締め付けの強い医療用弾性ストッキングを1日10時間以上着用しました。あれは脱着に力が必要で、大変なんです。着用時間を減らしながら1週間ぐらい着け続けたことが唯一の苦労でしたね。

 おかげさまで、夜中に脚がつることもなくなりましたし、膝丈のスカートもはけるようになったので本当に手術してよかったと思っています。

 つくづく「すごいな」と思ったのは、番組放送後、街で知らない人から「脚大丈夫なの?」と声をかけられることが多くなったことです。「テレビ見たわよ」「あたしもそうなの」とあちこちで言われるので、どれだけ病院を紹介したかわかりません。「こんなに悩んでいる人が多かったのか」と改めて知ったのと同時に、「下肢静脈瘤」の認知度を随分高められたので、少しはお役に立てたかなと思います(笑い)。

 病院で手術を勧められるのは比較的症状が重い人で、注射と弾性ストッキングの併用で治る人もいれば、弾性ストッキングだけで治る人もいるようです。野球のキャッチャーや茶道をしているなど「座る」機会が多い人はなりやすいらしく、遺伝も関係しているようです。痛みがないので放置しがちですけれど、今は下肢静脈瘤の専門病院や血管クリニックがあるので、血管がボコボコしてきたら早期に受診することをお勧めします。

(聞き手=松永詠美子)

▽まつおか・きっこ 1947年、東京都出身。58年、東映児童研修所(現・東映アカデミー)に入所し、子役として活動を始める。73年のアクションドラマ「アイフル大作戦」、74年「バーディー大作戦」で女優としてブレークすると、その後は「巨泉・前武ゲバゲバ90分!」などのバラエティー番組への出演や、「11PM」「スター家族スタジオ」の司会を務めるなど幅広く活躍。81年に俳優の谷隼人と結婚し、おしどり夫婦として知られている。

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