それだけで命に関わるケースも…「脱水」を軽く考えるな

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 本格的な暑さが到来するこれからの季節、注意しなければならないのが体内の水分量が不足することで起こる「脱水」だ。熱中症の一番の要因だが、脱水だけでも深刻な状態につながるケースがある。

 脱水は高齢者だけではなく、30~50代も予防を心がけないと危機を招く。47歳の男性会社員が、脱水で入院した体験を語る。

「自宅で食事を取る暇もなくリモートワークをしていたときのこと。突然、意識がもうろうとして嘔吐しました。その後は一日中、水を一口飲むだけで300ミリリットルほど嘔吐……の繰り返し。病院へ行ったら即入院と診断されました。室内ではエアコンの除湿と扇風機を併用していたのに不思議です」

「たかせクリニック」の理事長で医学博士の高瀬義昌氏は言う。

「このケースでは2つの原因が考えられます。1つは食事を抜いたことによる体内の水分不足です。一般成人の場合、水分の出入りは1日2・5リットルといわれています。『排泄』が、汗や呼吸で1・2リットル、尿や便で1・3リットル。『補給』が、飲み水から1・0リットルと食事から1・2リットル、体内でつくられる水分0・3リットル。1日3食から1食抜いただけで、0・4リットルの水分が不足してしまうのです」

 2つ目の原因は、「不感蒸泄」と呼ばれる発汗以外で皮膚や呼気から水分を過剰に喪失してしまったことが考えられるという。

 汗をかかずにすむ室内で終日過ごしたため、1日で1・0リットル以上の水分を失ったと予測できるそうだ。

「意識がもうろうとしたのは、脱水によるせん妄の一歩手前です。水とナトリウムやカリウムなどの電解質(塩分)を含む体液の電解質濃度が異常になり、脳の神経細胞の活動が妨げられる症状です。突然、訳のわからないことを叫ぶ、うろうろ動き回る、幻聴や幻覚などが挙げられます。脱水が進行するとせん妄が起こり、せん妄が起こると脱水は重症化します。脱水によるせん妄は見逃されやすいですが、命に関わるケースもあり要注意です」(高瀬氏)

■水のガブ飲みは逆効果

 脱水の怖さはこれだけではない。体内の循環が悪くなって免疫機能全般が低下し、死に至る病気にかかるリスクも高まるのだ。

「脱水が怖いのは、血液が濃く固まりやすいドロドロ血になること。血液の固まりである血栓が脳の血管に詰まれば脳梗塞、心臓の血管に詰まれば心筋梗塞を発症し、生命の危険を伴います。また、尿量が減って細菌が洗い流されづらくなり、尿路感染症や膀胱炎、腎盂腎炎にかかる可能性もあります」(高瀬氏)

 脱水を起こしやすくなるこれからの季節は何より予防が大切だ。

 高瀬氏は、水分補給のために水をがぶ飲みすると脱水を加速させかねないので避けるべきだと指摘する。

「水やお茶など電解質がほとんど入っていない飲料を大量摂取すると、体液が薄くなります。すると体は水分と電解質濃度のバランスを保つために利尿作用を促し、水分と一緒に電解質も排泄し、脱水を悪化させるのです。スポーツドリンクやソフトドリンクもNG。熱中症を含む軽度~中程度の脱水が起きたときに必要な炭水化物(ブドウ糖)は1・35~2・5%で、それらは糖分が多過ぎるのです」

 常備すべきは経口補水液で、点滴代わりにバランスよく塩分(電解質)と糖分を補給できる。

「適度な運動も効果的で、イチオシはスクワットです。加齢に伴って体液の貯蔵庫である筋肉量が減るため、体内に体液を蓄えづらくなります。体内で最も太く大きな太ももを鍛えて、加齢による筋肉量の低下を緩やかにするのです」(高瀬氏)

 たかが脱水と軽く考えず、予防に努めたい。

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