簡単に切ってはいけない「盲腸」 食中毒と違って痛みが移動

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梅雨の晴れ間が要注意

 痛ったったた──。突然わき腹が痛くなる盲腸。自身に経験がなくても周りに盲腸を発症、脂汗を流して苦しみ姿を見たり、聞いたりしたことがある人も多いのではないか。日本人の15人に1人が一生のうち一度は経験するというが、昔は盲腸は不要な臓器だから痛みが出れば手術で切るのが当たり前だった。しかし、いまは違う。人の健康にかかわる大事な臓器であることがわかってきたからだ。盲腸とはどんな病気なのか? 「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に聞いた。

「盲腸は本来大腸の一部を指す言葉で、病気の名前ではありません。盲腸とは、小腸と大腸のつなぎめにある袋状の部分を指します。その盲腸から飛び出している5㌢ほどの管が虫垂で、その管が細菌感染などにより痛むのです。ですから盲腸は正式には虫垂炎と言われるのです」

 虫垂は長い間、その役割がわからなかったため、不要な臓器と考えられてきた。進化の過程で機能が失われた瘢痕器官と考えられてきたのだ。ところが最近はその役割がわかってきて、簡単に切除してはいけない臓器だとの見方が広がっているという。

「虫垂は腸内に悪玉菌が増えたときに善玉菌の避難所になる役割があることがわかったのです。そのため、盲腸の手術で虫垂を切除すると、手術後1年半から3年半の間に大腸がんになるリスクが2・1倍も高くなることがわかりました。恐らくは普段は善玉菌が必要に応じて隠れ家の虫垂から出退場することで腸壁ががん化するのを防いでいるのに、隠れ家がなくなり、その機能が失われたからでしょう。ただし、3年半を過ぎると盲腸を切っている人もそうでない人も予後は変わらないということがわかっています」

 そのためかつては積極的に手術で切除してきた虫垂炎は抗生物質などの薬で制御する治療も重視されるようになっている。

「最近は手術にするか、薬で制御するかは患者さんの判断に委ねる医師が多い。手術をすれば二度と虫垂炎にならない代わりに手術後の一定期間は大腸がんリスクが高くなること、一方、薬で制御すれば虫垂炎の再発が最大3割超あることは知っておいた方がいいでしょう」

 その虫垂炎はなぜか梅雨の晴れ間に発症することが多いという。

「虫垂炎の最大の原因は糞詰まりです。うんちが固まり虫垂を塞いでしまい、そこに細菌が繁殖するからです。しかもこのとき、虫垂にある免疫細胞から顆粒球が分泌されて細菌に攻撃を仕掛けます。顆粒球とは細菌や細菌の死骸を食べて掃除する働きがあります。顆粒球はとくに気圧が低くなる雨天では副交感神経が活発になるためその働きが活発になります。その結果、大量の酸化酵素が発生します。その酸化酵素が虫垂内の細胞をさらに傷つけて虫垂の炎症が激しくなると考えられているのです」

 ではなぜ、気圧が低い雨が降っている時ではなく、気圧が高くなる梅雨の晴れ間に盲腸が多くなるのか。それは顆粒球が活発になって盲腸を発症するまでにタイムラグがあるからだ。

 実際、佐賀県内の公立病院が2014年に発表した論文、「急性虫垂炎の発症と季節の関連性」によると、緊急手術した139例のうち6~8月(夏)が52例で最も多かった。

 では、どうすれば虫垂炎を防げるのか?

「先ほど申し上げた通り、原因は糞詰まりですから、なるべく食物繊維の多い食べ物を食べて、腸が活発に働くように、体をねじるなどの運動をこまめに行うことです。机に座ってじっとしているのが一番よくありません」

 ちなみに盲腸の痛みは当初みぞおちから始まり、徐々に痛い場所が移動する。その点が食中毒とは違う点だ。普通と違う腹痛を感じたら、下手にがまんせず医療機関に相談することだ。

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