近い将来、アルツハイマー病が治るようになるかもしれない。アルツハイマー病治療薬候補「アデュカヌマブ」について、開発した米バイオジェンが7月8日(現地時間)、米食品医薬品局(FDA)へ生物製剤ライセンス申請が完了したことを発表した。
アデュカヌマブは、世界初のアルツハイマー病治療薬だ。早期患者を対象にした臨床試験では、認知機能の低下を約2割抑えられるなどの結果が出ている。現在FDA承認の薬は4つあるが、いずれも一時的に認知機能を改善するに過ぎない。
問題は、一般的に使えるようになるまで、まだ時間がかかること。FDAに承認されるかは未定で、承認されても日本での承認はその後。しかも高額で、現段階では1カ月100万円以上といわれているからだ。
「それならば、認知症予防のポテンシャルを秘めたことをまずやるべき。今年65歳の自分も実行しているし、多くの人に知ってほしい」
こう言うのは、認知症専門医の遠藤英俊医師。やっていることは、いずれもエビデンスに基づいている。話を聞いた。
【6~8時間の睡眠時間を確保し、生活にリズムをもたせる】
遠藤医師は今年3月に定年退職。しかし今も、水~土曜日に診察を行っている。
「睡眠時間が少なすぎると認知症のリスクを高めます。睡眠時間を確保した上で、『毎日が日曜日』にしない。仕事でなくても、決まった時間や曜日にジャケットを着て外出する、買い物に行く、習い事をするなど、意識して行動する」
【料理をする】
いくつもの作業を同時に行う料理は、認知症予防に役立つ。
「料理教室に行く予定でしたが、コロナで難しくなったので、個人の先生に習ったり自宅で作ったりしています」
【マージャンをする】
「牌を組み立てる、どの役であがるかを考える、相手の手を読む……などが全て認知機能や注意力を喚起し脳をフル稼働させます」
マージャンや料理教室は、人とのコミュニケーションも増やす。それも認知症予防につながる。
【有酸素運動をする】
ゴルフや水泳、ウオーキングやジョギングなど有酸素運動ならなんでもいい。
「有酸素運動で脳の血流や脳の酸素摂取量が増え、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの蓄積を防げることが考えられます。また脳由来の神経栄養因子が活性化し、脳の神経細胞のネットワークが増えます」
ウオーキングをしながら、目についた車のナンバープレートを覚えたり、ナンバープレートの数字を逆から足し算していくなど、脳を働かせるとさらにいい。
【カレーとシークワーサーを隔日で取る】
「カレーのクルクミンがアミロイドβの蓄積を防ぎます。また、シークワーサーのノビレチンには脳の神経変性の予防や改善の効果があることが複数の研究で明らかになっています」
【さまざまな食品を取る】
さまざまな食品を取る人は、そうでない人より認知症機能の低下リスクが44%抑制されるとの研究結果が出ている。
「また、福岡県久山町での疫学調査では、大豆製品、乳製品、野菜、海藻類の4つの食材を多く取っていた人が認知症リスクが低いとの結果も出ています」
現在40~50代の中年世代も、認知症対策としてやるべきことがある。2017年、英医学雑誌「ランセット」に、認知症発症リスクを高める複数のリスク因子のうち「自分次第で改善できる9つのリスク要因」が掲載され、45~65歳の中年期では高血圧、肥満、難聴が挙げられていた。早めにこれらの対策を行うことは非常に大事だ。
認知症発症を100%抑えられなくても、予防策の徹底で発症のタイミングを遅らせられれば、アデュカヌマブ、またはそれ以外の治療薬が登場し、その恩恵を受けられるかもしれない。
▽遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
国立長寿医療研究センターなどで35年間認知症の治療・研究に携わる。最新刊に「医師が認知症予防のためにやっていること。」(日経BP)がある。