進化する糖尿病治療法

旅行もできず外食もできず…たまるストレスどう解消する?

どこかに行きたいけど
どこかに行きたいけど(C)日刊ゲンダイ

「Go To キャンペーン」が先週22日から始まりました。しかしコロナの感染拡大を心配して、「旅行はしばらくできない」とあきらめモードの方が少なくないように思います。東京都在住者においては、キャンペーンの対象から外れていることもあり、旅行はおろか、「(東京以外に住む)子どもや孫に当分会えない」「一年に一度の楽しみだった祖先のお墓参りができない」とがっかりした声をよく聞きます。

 心配なのが、糖尿病、高血圧など慢性疾患を持っている方のストレスコントロールです。私の患者さんでもこの2~3週間でメンタル面に不安を持ち、体調を崩した方が増えました。主に60~70代で、これまでは定期的にご家族、友人たちと旅行や食事に出掛けていたのですが、次々予定がキャンセルとなり、楽しみがなくなってしまったのが原因です。

 やりたいことができないと、だれしもストレスがたまります。すると交感神経が優位になり、血糖を上昇させるグルカゴン、アドレナリン、甲状腺ホルモンなどが活性化して、血糖値が上昇しやすくなるのです。ストレスは、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールの分泌量も増加させ、やはり血糖値を上昇させます。

 人混みを避けなくてはならない今の状況で、旅行、外食好きな方がストレス発散のためにできることはとても限られています。散歩をしようにも、人が歩いていない時間帯や場所を選ばなければならない。コロナ対策がしっかりしている店で「3密」でなければちょっとくらい外食してもいいのでは、と自分は思っても、友人などは誘いにくい。受け入れる側も、複数人数での利用を推奨していない店もあります。

■90代の母親とオンラインでやりとり

「大好きな郷里に帰れないとは」と嘆くのは、64歳の男性。実家は岡山県にあります。定年退職してからも東京で週2、3回仕事があるので東京在住ですが、65歳を過ぎたら、同郷の妻とともに兵庫県へ居を移す予定。これまでは、数カ月に一度は帰省し、特に夏と冬は長期間実家で過ごしていました。実家では、90歳の母親がひとり暮らしをしています。

 しかしコロナの報道が深刻に流れ始めた3月からは一度も帰省していません。「夏には」と思って我慢していましたが、今回の東京感染者増大で、母親や親戚からは帰省を猛反対され、東京にとどまることを決めました。幸いにも母親は元気で自立した生活を送っていますが、年齢が年齢なので、会える時に何度も会いたい。この男性自身、60代半ばですから、帰省がままならない病気にいつなるとも限りません。何より自然豊かな岡山が恋しくてならない。

「感染の広がりを見ていると、今年一年は岡山に帰れない可能性がある。文句を言っていても仕方がないので」と、男性は来年元気に帰れるように、健康に留意した生活を心掛け始めました。長く受けていなかった健康診断を受けた結果、血糖値と血圧が基準値を超えていることが判明。薬物治療を開始するとともに、夫婦2人で食事の味付けを見直し、早朝、人けのない時間帯に散歩もするようにしました。

 実家には自分のためのパソコンがあり、Wi―Fi環境も整っています。そこで実家近くに住む幼馴染みの手を借りて、母親とオンラインでやりとりできるようにしました。「90歳の母親には無理なんじゃないか」と思っていたそうですが、意外にも母親はすんなりオンラインの会話を受け入れ、楽しんでいるそうです。

 旅行しづらい状況を何とかしようと、オンラインを通して旅行気分を味わえるサービスも登場しています。オンライン飲み会やオンライン食事会もあります。自分に合った方法を見つけて、ストレスを少しでも解消してほしいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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