進化する糖尿病治療法

神経障害で熱中症に…汗をかきにくく対応調節ができない

写真はイメージ

 糖尿病の合併症の中で最初に表れ、そして最も多いのが、神経障害です。

 私たちの体には、物を触って熱さや痛みなどを感じる感覚神経、食べ物の消化や血圧の調整、排尿・排泄や発汗など体の機能に関わる自律神経、手足を動かす運動神経があります。高血糖が続くと、血管が傷ついて血流が低下し神経に栄養が十分に行き届かなくなります。

 また、末梢神経の代謝に異常もきたします。結果的に感覚・自律・運動神経の働きが障害され、多岐にわたる症状が出てくるのです。

 ざっと挙げると、両側の足先のしびれや痛み、冷感。足先や指先の感覚が鈍くなる。胃腸の働きが悪くなり、胸焼け、吐き気、食欲低下や便秘・下痢を招く。血圧調整の不良や心機能低下で立ちくらみ、動悸・息切れ、むくみ、ひどい場合は致死的な不整脈などを起こす。排尿障害や残尿感、勃起障害なども生じやすくなります。

 ある60代の女性は、熱中症で救急搬送され、神経障害も判明しました。糖尿病歴20年近くで、汗をかきにくく、体温調整がうまくできていなかったことが、熱中症につながったのです。

■現状では対策は不十分

 また、「ガラスを踏んで足が血だらけになった」というような場合、通常は耐え難い痛みに襲われるでしょう。しかし、糖尿病で神経障害を起こしていれば、痛みを感じません。そのため糖尿病では、水虫や爪の切り過ぎなどほんのちょっとした傷が原因で、傷口が化膿して感染が広がり、足の指先が壊疽を起こし下肢切断に至るケースも珍しくありません。痛みを感じにくいことに加え、糖尿病で免疫力が低下しているため、治りが悪くなっているのです。

 下肢切断となれば、生活の質(QOL)は著しく低下し、寿命を縮めます。不整脈や熱中症も、命に関わります。神経障害は、ほかの合併症と同様、決して軽視してはいけないのですが、残念ながら、現状では十分な対策を講じられているとは言えません。

 というのも、医師と患者さんが外来で会話をできる時間は5~10分程度。糖尿病に関係する数値のチェックや最近の生活についての質問などをしていれば、すぐに時間が経ってしまいます。

「しびれがありませんか?」「足先や指先が冷たくなっていませんか?」など、神経障害に関わる質問を医師側からできればいいのですが、そんな時間がないのです。

 一方、患者さんも、医師から聞かれなければ問題視しないでしょう。ましてや、「感覚が鈍くなった」「汗をかきにくくなった」などは、患者さんがそもそも自覚していませんから、報告するところまでは当然いきません。

 では、どうすればいいのか? まずは、患者さんご自身が、神経障害について正しく知ることです。冒頭で述べた通り、最初に出てくる合併症ですので、神経障害に気をつけることは、糖尿病網膜症、糖尿病腎症。そして、最近注目されている糖尿病が発症リスクを高める病気、具体的にはがん、認知症、骨粗しょう症、うつ病などの対策にもつながります。

 神経障害は、血糖コントロール不良のほか、肥満、高血圧、脂質異常症、喫煙、飲酒などでリスクが高くなるので、生活習慣改善に努める。神経障害は「掛け算」でよりリスクが高くなります。つまり、該当するリスク要因が多くなればなるほど、発症率が高くなる。また、血糖コントロールが比較的良くても、糖尿病の罹患年数が長ければ、神経障害を起こしやすくなります。

 程度は軽くても、神経障害を疑うような症状があれば、患者さん自ら医師に報告することも大切です。

 神経障害は心電図の検査である程度分かるので、糖尿病歴が長い人は年1回は受けた方がいいでしょう。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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