独白 愉快な“病人”たち

しゃべることもできず休職して…宮崎宣子さん語る顎関節症

宮崎宣子さん
宮崎宣子さん(C)日刊ゲンダイ

 最初の異変は入社して4年目ぐらいのある朝のことでした。起きたら口の中がジャリッとして、「何?」と思ったら歯がちょっと欠けていたのです。以来、ちょくちょく歯が欠けて、そのたびに会社の診療所で応急処置でセラミック補強してもらっていました。きちんと歯科医院に行けたのは最初の異変から3年後、朝のレギュラー番組が終了した2009年でした。

「顎関節症」というと、顎の痛みや口が開かないなどの症状があるのですが、私の場合、顎がカクカクしたり、たまに痛みはあったものの、仕事ができないほどではありませんでした。でもレントゲン検査をすると、医師から「顎の引っかかりが普通の人の半分しかない。このままにしていると、すぐに顎が外れる状態になる」と言われました。どうやら寝ている間の食いしばりや歯ぎしりで顎関節にかなりの負担がかかっていたようです。

「どうしたらいいんですか?」と尋ねると、「正しい位置に固定して動かさなければ元に戻ります」とのことでした。要は骨折の治療のようなもの。正しい噛み合わせになるマウスピースを作って、それを食事のとき以外、24時間装着し続ける治療をすることになりました。

 思えば、高校1年生でアナウンサーになろうと決意したときに歯の矯正をすると決めて、大学の推薦入学の内定をもらったと同時に奥歯4本を抜いて歯列矯正を始めました。その後、生えてきた親知らずも抜いたので、2年間で8本の抜歯です。そして、大学3年生で始まるテレビ局の面接までに歯並び優先で急ぎめの矯正をしたので、そのツケが回ってきたのかなぁと思いました。

 24時間、マウスピースをするとなるとアナウンサーの仕事はできません。事務作業をしながらフルで働く選択肢もありましたが、周りが仕事をしている中で、しゃべることもできずにアナウンス部にいるのは耐えられないと思い、休職することを選びました。

 当時、朝の生番組や全国放送のレギュラー番組、通販や深夜放送、ナレーションも特番も……と、たくさん仕事をさせていただいていて、自分を振り返る余裕がありませんでした。でもふと思うと、入社前に「やりたい」と思っていたことが全部達成できていて、その先が何も見えていなかったんです。「これは『この先、30代をどう生きるかを考えなさい』というサインだな」と受け止めました。

■復職後に眠れなくなり半年でドクターストップ

 ひと月に1回、レントゲンを撮って修復の経過を観察すること8カ月。復帰できると診断され、いろいろと考えた結果、やはり「いまの会社はいい会社だ。一生、骨をうずめよう」と決意して復職しました。それが、復帰後初の担当は朝4時からの生番組で、深夜0時に起床。その上、曜日によって昼ロケだったり夜の特番があったりで、いつしか体内時計が狂ってしまったのです。生理が止まり、梅干しの味も分からないくらい味覚がなくなり、空腹も感じなくなって、休まなくてもいくらでも楽しく仕事ができるモードになりました。

 さらに、眠れないので、会社の診療所で処方された睡眠薬を飲んだこともありました。金曜に寝て、起きたら日曜の朝だったときにはびっくりでしたが……(笑い)。その後、睡眠薬が効きすぎるので軽いものに変えてもらおうと心療内科を受診すると、「自律神経が崩れています。脳が寝ていない状態が続いているんですよ。今の生活を改めないと、うつかパニック障害か睡眠障害になります」と指摘され、復帰早々、半年でドクターストップとなりました。

 2度目の休職になったことで、絶望の中、実家の宮崎県に帰省しました。体内時計を戻すために、朝は森の中の1時間散歩を日課にして、添加物のない食事でたっぷり英気を養い、2度目の休職も半年かかりました。「もうこれ以上、会社に迷惑はかけられない。会社にいるべき人間ではないな」と思いました。ただ、「辞めるにしてもその前に会社に迷惑かけた分、何か恩返しをしなければ」と考え、復職して雑用でもどんな仕事でも率先して受け持ちました。そんな復職5日後に「3・11」(東日本大震災)が起こったんです。もう体調は問題ありませんでしたが、復職して頑張ろうとするたびに何か起こるので、「これ以上、この会社にいてはいけないサインなのかな」と自分なりに解釈して、復帰して1年働いた後、退職願を提出し、翌年3月に退社しました。

「自分の人生を自分のために使おう」と考え始めたのは、この頃からです。

 そして退職後、「一生誰かの役に立つ仕事がしたい」という目標を掲げて、ハーブの勉強を始めました。資格を取得して、ハーブ先進国のヨーロッパへ取材にも行き、2年前にハーブの会社を立ち上げたんです。なぜハーブだったかというと、心療内科の先生にハーブを治療のひとつとして勧められたからです。それまでまったく興味すらなかったんですけれど、こんなので治るの? と思いながらハーブティーを飲み始めて、勉強すればするほどハーブの力を理解できたんです。

 生活では、今は特に不安になる報道が多いので、ニュースを見過ぎないことやブルーライトで睡眠が浅くならないよう入浴後にはスマホを見ないことなどを心掛けています。疲れたときは今でもマウスピースをして寝ていますし、犬との散歩もオススメです。脳は運動しているとマイナス志向になれないんですって。それもこれも、みんな体調不良から学んだこと。私にとって病気はいったんすべてをストップして自分を見つめ直す、良い機会でした。

(聞き手=松永詠美子)

▽みやざき・のぶこ 1979年、宮崎県生まれ。早稲田大学卒業後、2002年に日本テレビ入社。「ラジかるッ」「ザ!世界仰天ニュース」「Oha!4 NEWS LIVE」など、ニュースからバラエティーまで幅広く担当した。12年に日本テレビを退社し、フリーアナウンサーとして活動している。18年には自身がプロデュースするハーブブランド「EMARA」を設立。体臭ケアのボディーシャンプーなどを企画販売している。

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