進化する糖尿病治療法

「健康で長生き」には必須のタンパク質 理想的な取り方は

タンパク質が摂取できていない
タンパク質が摂取できていない

「年を取っても肉をたくさん食べられる人は健康で長生きする」といった話を聞いたことはありませんか?

 肉を食べられるほど元気だから健康で長生きできるのか、肉が「健康で長生き」に作用しているのか、どちらが先かは難しいところですが、高齢者において肉、つまりタンパク質摂取は重要なポイントです。

 加齢によって筋肉量は減少し、筋力も低下。それが60代以上になると加速します。筋肉量が減ると、健康な状態から寝たきり状態の間に位置する「フレイル(虚弱)」に陥りやすくなり、運動や認知機能が低下しやすくなります。

 糖尿病の人は、筋肉が減るとブドウ糖消費量が減って血糖値が上がりやすくなります。だから、糖尿病の場合、より筋肉量減少・筋力低下を起こさないよう、意識しなくてはなりません。

 それに役立つのが、栄養面ではタンパク質の摂取です。日本人の食事摂取基準(2020年版)でも、高齢者は十分な量のタンパク質を毎日取ることが推奨されています。ここで言うタンパク質とは、肉や卵に含まれる動物性タンパク質も、豆腐などに含まれる植物性タンパク質も、どちらも指します。

 タンパク質の食事摂取基準は総エネルギーの15~20%で(65歳以上の場合。50~64歳は14~20%)、推奨量は1日65グラム以上。目安として、木綿豆腐100グラムにタンパク質6・6グラム、絹ごし豆腐では4・9グラム、鶏胸肉皮付き・焼きで100グラム中34・7グラム、鳥もも肉では26・3グラム含まれています。

 身長・体重が小さかったり、75歳以上で活動量が大きく低下して必要エネルギー摂取量が低くても、タンパク質の摂取量の下限は、推奨量以上とすることが望ましいとされています。

 前回、「○○○にいいという食品でも、過剰な取り方は逆効果」という話を紹介しました。筋肉量維持に不可欠なタンパク質ですが、タンパク質の取りすぎは腎臓にダメージを与えます。

■朝・昼の食事に納豆や豆腐、卵を加える

 糖尿病の人には腎臓が悪い人もいるので、タンパク質の取り方には特に注意しなければなりません。

 過剰にならず、少なすぎにもならず、タンパク質を摂取するには、3度の食事でバランスよく取ること。

 一般的に夜はタンパク質を取れていても、朝や昼はタンパク質が不足している人が多いように思います。タンパク質が多い食品といえば、前述の豆腐や鶏肉のほか、納豆、高野豆腐、豆乳といった大豆・大豆加工食品、卵、牛乳、魚、赤身の肉があります。

 朝はご飯、味噌汁、漬物、昼はうどん・そばやご飯と簡単なおかず……といった食事メニューでは、タンパク質がほとんど摂取できていません。朝・昼の食事に納豆や豆腐、卵を加える。味噌汁に豆乳や牛乳を加えるのもいいでしょう。うどん・そばを食べるなら、鶏肉や卵、野菜類を加えて具だくさんにしてください。

 サバ缶やイワシ缶の水煮を常備しておき、味噌汁やうどんにこれらの缶詰や豆腐を入れるのもお勧めです。サバ缶、イワシ缶は塩分不使用のものにすれば、塩分の取りすぎも避けられます。卵や肉類でタンパク質摂取量を増やすと、脂質やコレステロール量の摂取も増えるので、できれば大豆・大豆加工食品を積極的に取ってタンパク質摂取量を増やすことをお勧めします。

 筋肉量減少・筋力低下を防ぐには、栄養面でタンパク質を補充するとともに、運動も必須。ラジオ体操、ストレッチ、ウオーキングなど、できる範囲のものを日常的に取り入れてください。

「歯磨きや洗顔の時にストレッチを20回する」「お湯を沸かしている時に爪先立ちをする」「夕食後はテレビを見ながら全身のストレッチをする」など、日常の動作に組み込むと、気負わずに体を動かすことが日課になると思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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