専門医が教える パンツの中の秘密

男性にも「前立腺小室」と呼ばれる子宮があるのはなぜ?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 女性がときめく何かに出合ったときの、「キュン」とする感覚を「子宮がうずく」と表現されることがあります。「男は子宮がないから女の感覚は分からない」と一蹴する男性もいるでしょう。ところが男性にも子宮があります。正確に言えば、子宮の“痕跡”が残っているのです。

「男性子宮」は膀胱(ぼうこう)の背側で骨盤底部に位置し、前立腺の近くにあるので「前立腺小室」とも呼ばれます。しかし、通常は小さく、何も機能を持っていないので、誰も気づいていません。

 では、なぜ男性にも子宮があるのでしょうか。

 それは、性器はもともと「女性型」が基本だからです。女性の「卵管」「子宮」「腟」と、男性の「精管」「精嚢(のう)」「前立腺」は「内性器」と呼びます。胎児が6~7週目の頃には、女性の内性器の起源となる「ミューラー管」と、男性の内性器の起源となる「ウォルフ管」を2本ずつ持っています。

 そして、Y染色体を持つ男性は性腺の分化で精巣が発達すると、精巣から「ミューラー管抑制因子(AMH)」と「男性ホルモン(テストステロン)」が分泌されます。この2つの物質があると、内性器は「男性型」になり、なければ自動的に「女性型」になります。AMHはミューラー管の発育を抑制して、卵管や子宮が作られないように働きます。

 また、男性ホルモンの働きによってウォルフ管が発達することで、精管や精嚢ができます。この内性器の分化で、ミューラー管の一部がごくわずか残ったものが男性子宮なのです。

 男性子宮があっても、通常は病気の原因になることはありません。

 しかし、胎児の頃の内性器分化の際に、AMHや男性ホルモンの働きが何らかの原因で障害されると、ミューラー管の退縮が不十分となり、子宮や卵管といった女性の内性器が男性の幼児に伴う場合があります。

 このような場合でも女性の内性器が小さく、無症状であれば問題はありません。しかし、女性の内性器が大きく、尿路感染、結石形成、排尿障害、尿失禁などの原因となるようなら治療が必要です。治療は、開腹手術や腹腔鏡手術で女性の内性器を摘出します。

 また、男性のペニスの形態異常(奇形)のひとつに「尿道下裂」があります。尿道が尿道口から裏筋に沿って裂けている状態です。程度は人によってさまざまですが、男性子宮は尿道下裂の11~14%に合併し、高度な尿道下裂の場合には50%以上に合併するとされています。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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