Dr.中川 がんサバイバーの知恵

上皇后さまは問題なしも…がん患者の微熱には3つの原因が

上皇さまに寄り添って穏やかに
上皇さまに寄り添って穏やかに(代表撮影)

 上皇后さまに微熱が続いているほか、左手の指がこわばる症状がみられると報じられました。宮内庁病院で受けられた検査の結果、大きな問題が見つからなかったのは何よりです。

 上皇后さまは昨年、乳がんの手術を受けられています。幸いステージ1で転移はありませんでした。術後は、再発を抑えるため、ホルモン療法を受けられています。

 上皇后さまの微熱は問題なしとのことですが、一般論としてがん患者の微熱は気をつけなくてはいけないことが少なくありません。そこで、がん患者と微熱についてお話ししましょう。

 がん患者が発熱する原因は、①感染②腫瘍そのもの③その他に分けられます。①が最も重要で、抗がん剤の影響で白血球が減ったときに感染を起こしやすく、熱が出やすい。特に白血球のひとつである好中球が減少しているときに、体温が37・5度以上の状態は、「発熱性好中球減少症」と呼ばれ危険な状態です。

 抗がん剤治療は長く入院で行われていました。副作用の管理が重要だったためです。

 ところが、分子標的薬など最新の薬は比較的副作用が軽く、外来で抗がん剤を行うことが増えています。そうすると、入院と違い、連日の採血ができないため、発熱性好中球減少症が見過ごされ、亡くなるケースもあるのです。抗がん剤治療を受けて数日後の発熱は危険なサインで、決して軽く見てはいけません。

 ②はがんの存在によって発熱するもので、「腫瘍熱」と呼ばれます。進行、末期がんでは珍しくありません。医学的には、感染の病巣を同定できないのに、発熱が定期的にあって自然に解熱する状態。全身状態がよく、寒けやふるえなどはありません。

「37・8度以上の発熱が1日1回以上」「発熱の期間が2週間以上」などの項目が掲げられることもありますが、公式な診断基準はありません。そのことから分かるように患者さんは、異常が見られたら、すぐ主治医に相談し、検査を受けるべきでしょう。

 腫瘍熱が疑われると、解熱鎮痛剤のナイキサンを服用。12~24時間後から丸1日通して解熱していれば、腫瘍熱と診断されます。

 ホルモン療法では、薬剤を問わず、ほてりや発汗など更年期のような副作用が見られやすい。薬によっては、関節痛や筋肉痛が生じることもあります。ホルモン療法は5~10年以上続けることが必要ですので、上皇后さまのような症状は、ホルモン療法の副作用の可能性もあるかもしれません。

 皆さんもいつもと違う症状に気づいたら、主治医にすぐ相談することです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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