心臓が悪ければ安静第一は間違い 適度な運動が予後を良くする

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
世界初の研究結果を北里大学の教授ら発表

 一般的に「心臓が悪ければ安静が第一」と考えられがちだ。しかし「適度な運動がむしろ益になる」ことを示す世界で初めての多数例の研究発表が9月29日、米国心臓協会の心不全専門誌「Circulation Heart Failure」に掲載された。研究グループのひとりである北里大学医療衛生学部理学療法学専攻の神谷健太郎教授に話を聞いた。

 心臓病でよく知られる心筋梗塞は命を落とすリスクの高い病気だが、実は心臓病で亡くなる人の40%が心不全で、心筋梗塞の16%を上回る。

 心臓には収縮機能と拡張機能がある。心不全は、これらの機能がだんだん悪くなり、生命を縮める病気だ。最初は息切れやむくみなどの症状で、やがて入退院を繰り返すようになり、ひどい場合は自分の足で歩いてトイレにも行けない寝たきり状態になる。

「心不全には収縮機能が低下するものと、収縮機能は保たれたままで拡張機能が低下するものとがあります。かつては、収縮機能が低下する心不全がほとんどだと考えられていました。しかし現在は、半数ほどが収縮機能が保たれた心不全です」

 心不全の治療には薬物療法と、ペースメーカーや植え込み型除細動器といったデバイス治療がある。薬はこの数年でも新薬がいくつも登場し、最近は糖尿病の治療薬SGLT2阻害薬が心不全に有効であることも研究で証明されている。

「ところが、これらは収縮機能が低下した心不全に対しては有効ですが、収縮機能が保たれた心不全には有効性は明らかになっていません。世界中の製薬会社や研究者が収縮機能が保たれた心不全の予後を良くするための臨床研究を行っているものの、効果が証明されたものはありません」

 だから、収縮機能が保たれた心不全に対しては、症状を改善する対症療法が中心となる。神谷教授らは、収縮機能が保たれた心不全患者は高血圧など多くの併存症があり、高齢フレイル(身体的機能や認知機能が低下し、要介護へ移行する中間の段階)の人が多いことから、運動療法を含む包括的な介入が特徴である心臓リハビリテーション(以下、心臓リハ)に着目。

 全国15の病院に心不全で入院した患者4339例を対象に、取り込み基準に該当する3277例のデータを解析して、心臓リハ実施の有無による予後の違いを比較した。

「過去の心臓リハについて調べた研究は、90%以上が心臓の収縮機能が低下した比較的若い心不全患者が対象で、高齢フレイル患者や収縮機能が保たれた患者は対象にしていませんでした。アジア人のデータもなく、2000年以前に行われた研究で、現在の標準的な心不全治療を受けていない患者さんが対象でした」

■死亡リスクが3割減少

 この世界初の多数例の研究で明らかになったのは、心臓の収縮機能が保たれた心不全においても、心臓リハが非常に有効であるということだ。

 まず、心臓リハを行った心不全患者では、死亡及び再入院のリスクが23%減少し、死亡リスクが33%減少、再入院リスクが18%減少した。

 次に、フレイルの程度がひどくなるほど、死亡・心不全入院の割合が上昇するが、軽度から中程度のフレイルの心不全患者で、心臓リハを行っていた患者は予後が良好だった。

「さらに収縮機能が低下した心不全、収縮機能が保たれた心不全に分けてみても、どちらも心臓リハを行った患者さんは予後が良好でした」

 つまり、収縮機能が低下しているか、保たれているかに限らず心臓リハを行うことが重要で、予後だけではなく、日常生活での息切れや歩行能力も改善するところが、薬にはない大きな特徴だ。

「心臓リハは運動療法に加え、病気を管理する上で必要な教育やカウンセリングを包括的に、医師、理学療法士、看護師、栄養士、薬剤師などの多職種で行うものです」

 薬を退院後も継続して飲まなければいけないように、心臓リハも心不全の標準的治療のひとつとして継続する必要があるという。

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