家族や周りにがん患者がいる人は、気づいているかもしれません。がんの痛みについてです。国立がん研究センターは、2017年にがんで亡くなった患者のうち4割が、死亡する1カ月前に痛みを感じていたとする推計結果を公表しました。痛みに苦しんでいる状況が垣間見え、がん患者さんや周りのつらさを裏付けるデータといえるでしょう。
調査は、がんのほか心不全や脳卒中などで亡くなった患者の遺族5万人が対象。このうちがん患者の遺族は約2万6000人で、約1万3000人から有効回答を得ています。
推計によると、亡くなる前の1カ月に痛みがあった割合は40・4%。痛みに加えてだるさや息苦しさなど身体的な苦痛を感じた人は47・2%、心のつらさを感じていた人は42・3%。どちらも、心不全や脳卒中よりも数値が高いのが気掛かりです。
がんが進行すると、骨に転移しやすい。乳がんと前立腺がんは75%、肺がんは54%といった具合に原発の臓器を問わず、起こり得ます。転移の場所は、首の骨や背骨、肋骨などに多いものの、骨転移はほかの臓器への転移と異なり、生命を脅かすものではありません。
しかし、骨転移が生じると、痛みやマヒ、骨折などで生活の質が損なわれやすい。抗がん剤などの治療がうまくいっても、そのような症状で外出がままならなくなれば、元も子もありません。治療途中にそうなると、時には治療中断を考慮することもあります。
ですから骨転移に代表されるがんの痛みは、しっかり取り除くことが大切。それに効果的なのが放射線です。たった1回の照射で骨転移の痛みは8割以上緩和されます。放射線はがんの3大治療のひとつで、骨転移にもとても効くのに、日本ではあまり行われていないのが問題です。
皆さん、骨転移の時は放射線治療ということを頭に入れておいてください。
末期がんの痛みは激しいことが多く、モルヒネに代表される医療用麻薬も欠かせません。モルヒネ↓麻薬↓依存性があって危険という連想から、ためらう人もいるでしょうが、医師の指示通り適切に服用すれば、まったく問題なく、痛みの緩和にとても有用です。
モルヒネを使うと、ほぼ全例に便秘が生じるので下剤を併用。3人に1人は吐き気や嘔吐が見られるので、それを抑える薬を併用すると、服用開始から大体2週間程度で吐き気はほとんど解消されます。
肺がんで手術ができない進行がんの患者を、通常の抗がん剤を行うグループと、抗がん剤と緩和ケアを行うグループに分けて追跡した有名な研究があります。その結果、緩和ケア併用群は、通常治療群に比べて生活の質が明らかに保たれ、うつ症状も減少。さらには死亡までの生存期間が3カ月も上回っていたのです。生活の質を保って最期を迎えるには、緩和ケアが不可欠なのです。