進化する糖尿病治療法

標準体重でも、痩せていてもコレステロールが高い人がいる

日常的に運動をしていても、痩せていてもコレステロールが高い人がいる
日常的に運動をしていても、痩せていてもコレステロールが高い人がいる(C)日刊ゲンダイ

 肥満が、糖尿病、高血圧、脂質異常症など心筋梗塞や脳卒中につながる生活習慣病のリスクを高めるのは、よく知られている通りです。

 一方で、基礎代謝が落ちて太りやすくなる40~50代で標準体重を維持している人には、健康的なイメージを持っていませんか? 「痩せているから生活習慣病ではない」「痩せているから健康診断を毎年受けなくても大丈夫」と考えている人もいるのではないでしょうか?

 しかし、肥満でなくても高コレステロールに注意しなければならないことを示す研究結果が、2018年に滋賀医科大から発表されています。

 それは、厚生労働省が1980年、1990年、2000年、2010年に実施した「国民健康・栄養調査」(旧国民栄養調査)に参加した全国の50歳以上の男女、それぞれ5014人、4673人、5059人、2105人のデータを解析したもの。

 過去30年間適正体重(BMI18・5以上25未満)の人に対して、肥満(BMI25以上)や痩せ(BMI18・5未満)の人は、高コレステロール(総コレステロール220㎎/デシリットル以上)に何倍なりやすいかを調べたところ、男性で肥満の人は1980年では2・4倍高かったのですが、1990年には2・0倍、2000年には1・4倍、2010年には0・9倍と、オッズ比が低下しました。

 また女性の肥満の人も、1980年は1・4倍、1990年は1・3倍、2000年と2010年はどちらも1・1倍と、やはりオッズ比が低下傾向でした。

 一方、女性の痩せの場合、高コレステロールのなりやすさが1980年では0・4倍、1990年では0・7倍、2000年では0・6倍、2010年では1・0倍と上昇。痩せていても高コレステロールになりやすい傾向が示されたのです。

 これらの結果から「30年前は肥満の人ほどコレステロール高値になりやすく、痩せの人ほどなりにくかったが、近年は体形にかかわらず脂肪の多い食事を取る人が増えたため、肥満や痩せとの関連が弱くなった可能性がある」と研究者は述べています。

■数値が高すぎる場合は生活習慣改善+薬も必要

 臨床現場で患者さんを診ていても、肥満の人や肥満だった人は患者さんに確かに多いですが、総コレステロールやLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い脂質異常症の患者さんには、痩せている人もいます。

 現在52歳の都内在住の男性もそのひとり。テニスを日常的にしていて、ほっそり引き締まった体形ですが、LDLコレステロールが高め。ギリギリ基準値内にとどまっている……という状態が何年も続いており、定期的に検査を受けに病院へ来ています。

 この男性は、自宅での食事内容には気をつけているものの、お酒が好きで、外食も多く、外で食べるときは脂肪の多い食事になりがち。LDLコレステロール以外の数値(中性脂肪、血糖、血圧)は基準値内を保っているので高コレステロールの薬を服用するところまでいっていませんが、今後は分かりません。

 男性には、体内のLDLコレステロールを増やす作用のあるバターやチーズ、赤身の肉、ベーコン、ハムなど動物性の脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸を、自宅で食事をするときはあまり取りすぎないように、というアドバイスをしています。

 LDLコレステロールは、実は体質との関係も大きい。痩せていても、運動していても、食事に気をつけていても、体質でLDLコレステロールが高くなりやすい人がいるのです。「薬は飲まずに生活習慣改善で数値を下げたい」という人がいますが、数値が高すぎる場合、生活習慣改善だけでなんとかするのは難しいかもしれません。薬を取り入れ、もちろん運動や食事療法も加えて、LDLコレステロールをちょうどよい基準に保つ必要があります。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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