がんと向き合い生きていく

「爪が黄色い」患者さんを検査すると肺に胸水が見つかった

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

「頚部とわきの下が黒くなった」

 そう訴える55歳の男性(会社員)が来院されました。痛みはないとのことですが、黒くなっているところの一部は線状になって色素沈着がありました。夏の間、特別に日焼けしたこともなく、何だろうと思って受診されたといいます。

 採血、尿の検査では問題ありません。しかし、胃内視鏡検査で進行した胃がんが見つかりました。まれな例ですが、この男性のように内臓の病気が皮膚に表れてくることがあり、「デルマドローム」と呼ばれています。

 食品売り場にさまざまな種類のミカンがたくさん並ぶ季節になりました。北国育ちの私は、冬になると毎年、こたつの中でミカンを一日何個も食べました。高校生の頃、ミカンの食べ過ぎで「体が黄色い」と指摘されたこともありました。黄疸ではないかとの心配もされましたが、黄疸の場合は目の結膜も黄色くなり、尿は黄色く、便は白くなります。

 ある外来診察での出来事です。「爪が黄色い」とのことで、皮膚科から60代の女性が紹介されてきました。皮膚や目の結膜は黄色ではなく、肝機能検査も問題なかったので黄疸ではありません。また、貧血もありませんでした。しかし、爪は黄色いのです。

 下肢に少しむくみがある程度で、ほかに体表には異常なし。3年ほど前に肺炎の既往があり、少し息切れがするとのことでしたが、酸素飽和度は96%とこちらも問題ありませんでした。

 聴診の後、胸部X線写真検査を行ったところ、左右の肺に胸水を認めました。特に右が多く、すぐに胸部CT検査となりました。結果は、肺線維症があり、肺結核、肺がんは否定的でした。がんによる胸水(がん性胸膜炎)ではありませんでした。

 結局、とてもまれな病気ですが「黄色爪症候群」と診断しました。原因はリンパ系のトラブルではないかと考えられていますが、胸水と黄色い爪の関係は分かっていません。それでも、胸水がコントロールされると黄色い爪の色は良くなるのです。この女性は定期的に呼吸器内科で診てもらうことにしました。

 3カ月経って、呼吸器内科を受診した後、その女性が私のところに寄ってくれました。爪の色は変わっていませんでしたが、体調は良好で元気でした。

■抗がん剤の副作用で爪が変色することも

 爪は大きな病気をすると、その2、3カ月後に変形することがあります。まれですが、爪そのものにも悪性黒色腫のようながんができる場合もあります。

 また、抗がん剤治療を受けている患者では、多くは投与期間が長くなった場合ですが、皮膚とともに爪が黒くなることがあります。表皮基底層や毛嚢、爪の細胞は、細胞分裂が活発であるため、抗がん剤の影響を受けやすいのです。

 抗がん剤による手足の皮膚や爪に生じる副作用は、総称で「手足症候群」といわれます。皮膚や爪に障害を起こす可能性のある抗がん剤には、フルオロウラシル(5―FU)、TS―1、カペシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、シタラビンなどがあります。また、分子標的薬でも、皮膚炎、爪囲炎の副作用が見られます。皮膚の症状が進行すると、水疱や潰瘍で歩行困難になる場合もあります。

 抗がん剤や分子標的薬による治療を受けていて思い当たる方は、遠慮なく症状の早い時期に担当医に相談されるといいでしょう。

 対策として、抗がん剤投与の加減、保湿剤などのスキンケア、時にはステロイドホルモン外用薬を用います。体調不良、あるいは病気にかかっている場合は、マニキュアなど爪の美容はあまり勧めません。診察の妨げになるためです。

 皮膚も爪も体の大切な一部です。新型コロナウイルスの感染対策で、お互いにマスクを装着しながらでも構いません。皮膚でも爪でも、何か変わったことや気になる点があれば、担当医にしっかり話してください。

 冬は空気が乾燥する時期です。皮膚も爪も、いたわりながら過ごしたいものです。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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