いつまでも口から食べたい<上>経口摂取は困難と言われたら

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 おいしいものや好きなものを食べることを「楽しみ」と感じている人は多いだろう。たとえそうでなくても、「当たり前のこと」「いつまでもできること」とほとんどの人が考えているのではないか?

「『口から食べることが困難』と医師から告げられるケースは、高齢でなくても、だれにでも起こり得ます」

 こう指摘するのは、NPO法人「口から食べる幸せを守る会」の小山珠美理事長。口から食べることは幸せ気分をもたらしたり、脳の機能活性化につながったりする。しかし、もし自分や家族が食べられない状況に陥った場合どうするか?

「備えと覚悟と具体的な対策を考えて、家族内で話し合いをしておくことが大事です」(小山理事長=以下同)

 まず知っておきたいのは、なぜ医師は「口から食べることが困難」と言っているのか?

「患者サイドの問題が大きい場合と、人的・物理的環境の問題が大きい場合とがあります」

■1、2回の評価で判断してはいけない

 患者サイドの問題としては、「高齢で心身が衰弱し、食べることで誤嚥性肺炎やそのほかの併存疾患の悪化に陥る可能性がある」「本人が食べたいという意思表示ができず、意識レベルや認知機能が相当低下している」「消化管の機能が相当低下しており、嘔吐や下痢を繰り返す」「経口摂取を開始すると発熱を繰り返す」など。

 一方、人的・物理的環境の問題としては、「家族が在宅での受け入れに消極的」「医師が主観的に難しいと判断し、食べることへの関心が希薄」「食べる支援を積極的に行う看護師や言語聴覚士がいない。もしくは実力がない」「摂食嚥下機能の改善を図るための知識や包括支援体制が脆弱」「退院先が経口摂取と非経口栄養の併用を認めない」「家族が医師の判断に委ねる」などがある。

「本当に経口摂取が可能かどうかは、その方の健康レベルや病状、どの時点で、だれが、どの評価ツールを用いるかで異なります。ただし、医師や歯科医師が嚥下障害評価のゴールデンスタンダードとして行う嚥下造影検査・嚥下内視鏡検査は、難易度が高いと考えてください」

 この検査は、造影剤を食物に入れたものを食べたり、鼻からチューブを入れて食べさせたりするもので、そもそも痛くてつらい検査である上に、口腔状態、認知機能、食べる時の姿勢や動作、食物の形態で評価結果が左右される。たとえば、顎が上がった姿勢のまま行うと誤嚥しやすくなる。認知機能が低下している人は指示に従えず、評価結果が悪くなることも珍しくない。

「ほかにもいくつかのテストがあり複合して行いますが、評価者のスキルや経験、患者さんの状態の影響を受けやすい」

 要介護高齢者で入院前からペースト食しか食べていない人に、顎が上がった姿勢で突然水を飲ませてもうまくいかない。それは、歩く機能が衰えた人にいきなり100メートルを全力疾走させ、タイムが遅かったり完走できなかったりしたら「自力歩行は不可能」と判断するようなものだ。

「痰の吸引や口腔ケアをしっかりし、誤嚥をしにくい姿勢で、食べるものを見せて脳に食べる準備をさせてからテストをすれば、誤嚥なくスムーズに食べられるケースはよくあります。本人も満足感があるので、覚醒を良好にしたり、食欲を高めたりします。結果、脳機能の活性となり、摂食嚥下機能の改善を促進する評価となります」

 残念ながら、現在の医療では、口から食べられなくなった理由をきちんと探り、対処されるケースはまれだ。大事なのは、1~2回の評価で経口摂取が可能かどうかの判断をしないこと。「今」は経口摂取が困難でも、栄養を十分確保して食べ物を使った訓練をしたり、前述のように痰の吸引や口腔ケアをしたり、ステップを踏んで口から食べられるようになる人は少なくない。

 医師の「口から食べることは困難」の言葉をそのまま受け入れず、あきらめないことだ。

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