Dr.中川 がんサバイバーの知恵

浅香光代は痛みなく永眠 がん闘病「治す」と「癒す」の配分

浅香光代さん
浅香光代さん(C)日刊ゲンダイ

 俳優・浅香光代さんが今月13日、膵臓がんで亡くなったと報じられました。10月に体調を崩されて入院すると、膵臓がんが発覚。ステージ4と診断されたそうです。

 92歳と高齢であり、手術をはじめ治療はできなかったといいます。

 大切なのは、発表されたご遺族のコメント。母の最期について次男は、次のように表現しています。

「浅香光代は病名を知ることなく、都内の病院にて膵臓がんのため、痛みを感じることなく、やすらかに永眠いたしました」

 重要なのは、「痛みを感じることなく」という点です。医療用麻薬をうまく使ったと推察されます。

 国立がん研究センターの調査によると、2017年にがんで亡くなった人のうち4割は、亡くなる1カ月前に痛みを感じていました。痛みに加えてだるさや息苦しさを感じていたのは47%。そんな苦痛から、心のつらさを感じていた人は42%に上ります。その数値は、心不全や脳卒中より高いのです。

 浅香さんは膵臓がんと診断された時、余命3カ月と告知されたといいます。国立がん研究センターの調査でも分かるように、がんは末期になると、痛みが出やすく、さらに強くなりやすい。

 ご遺族のコメントから、つらい痛みに苦しむことがなかったのは何よりです。

 がんの強い痛みには、モルヒネに代表される医療用麻薬が欠かせませんが、日本はその使用量がダントツに少ない。ドイツの20分の1で、米国の14分の1です。痛みに耐える国民性がデータに表れています。

 膵臓がんは、体の奥にあって見つけにくい。進行してから診断されるケースが多いゆえんで、だからこそ浅香さんのような痛みを取ることが大切です。

 実は痛みを取る緩和ケアと抗がん剤治療を行うグループと、緩和ケアなしで抗がん剤治療を行うグループに分けて追跡すると、緩和ケアをする方が生存期間が長いことが明らかになっています。緩和ケアで生活の質が良くなると、延命効果があるのです。

 膵臓がんを巡っては、治療法が改善し、手術可能な人でも、術前に抗がん剤治療を加えることで平均生存期間が1年近く延長することが報告されています。その結果を踏まえて、今後はガイドラインも改定される見込みです。

 膵臓がんは、早期で発見できたら、しっかり治す。末期なら、緩和ケアで癒やす。がん治療は、どのがんでも「治す」と「癒やす」のバランスを取ることが大事です。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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