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がんが脳に転移…放射線を「全脳照射」するのはどうしてか

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 Fさん(70歳・女性)の娘さんから電話がありました。がん治療の相談です。

 ◇ ◇ ◇

 今はやめていますが、母は若い頃に20年以上、たばこを吸っていました。3年前に検診で肺がんが見つかり、近くのがん拠点病院で右の肺の手術をしました。がんの組織は腺がんです。

 手術2年後に再発して、抗がん剤と分子標的薬の治療をしていました。肺外科の担当医は親切で一生懸命、治療をしてくれています。

 1カ月前から軽い頭痛と左手のしびれる症状があって担当医に申し出たところ、脳のCT検査をしてくれました。その結果を2週後に聞く予定でしたが、担当医から電話があって、今週中に病院に来てくださいと言われました。

 母と一緒にその結果を聞きに行くと、「脳に何カ所も転移があって、入院して放射線の全脳照射が必要だ」と告げられました。

 翌日から入院して、放射線治療が始まりました。同時にステロイドホルモンを飲み始め、母は「頭痛が減って調子は良い」と言っていますが、左手のしびれは変わらないようです。

 先生に教えていただきたいことがあります。脳にがんが転移した場合、友人から「ガンマナイフ」がいいと聞きました。

 ガンマナイフではなく、全脳照射するのはどうしてでしょうか? 頭全体に放射線を当てて大丈夫でしょうか? また、どうしてステロイドホルモンを使うのでしょう? その効果はあるのでしょうか?

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 電話での質問でしたので詳しくはお話しできませんでしたが、私はこう答えました。

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 Fさんのカルテを見たわけではありませんので、うかがったお話の内容から一般的な回答をさせていただきます。私の想像での答えなので、Fさんにはもしかしたら当てはまっていないかもしれません。

 脳の転移の数が少なく、またある程度小さいものなら、がんの転移だけを治療するためにガンマナイフを選択します。

 放射線治療の機械は進歩していて、がんのところだけを的確に放射線を当てることができます。それがガンマナイフ治療です。

 ところが、全脳照射になったということは、転移の数、たとえば細かい転移がたくさんあるとか、あるいは転移したがんの大きさなどから、恐らくガンマナイフでは抑えることが難しいと判断されたのだと思います。

 全脳照射が敬遠される理由は、正常な脳まで照射されてしまうところです。副作用として、認知症のようなボーッとした症状が残る方もおられます。また、頭痛や嘔気などが出ることがあります。多くの場合、全脳照射が嫌われるのはその点です。

 Fさんの場合、恐らく現段階では全脳照射が最適と判断されてのことだろうと思います。ガンマナイフがなかった頃は、脳転移が複数の場合は全脳照射が選択される場合が多かったのです。昔のお話ですが、肺がんの中で脳に転移しやすい小細胞肺がんの患者さんには、脳に転移が見られないのに予防的に全脳照射したようなこともありました。

 ステロイドホルモンは浮腫を軽減するために使われます。脳にがんができたり転移した場合には、脳ががんによって圧迫されて浮腫を起こすことがあります。そのために亡くなる方もいらっしゃるのです。しかし、ステロイドホルモンでがんがなくなることではないので、その効果には限度があります。

 一般的なお話をしましたが、どうしてガンマナイフではなくて全脳照射なのか、そしてステロイドホルモンを使っている理由を担当医にお聞きになった方がよろしいかと思います。他にもいろいろと副作用の注意点などもありますので、納得されて治療を受けることが大切です。

 ◆ ◆ ◆ 

 早く良くなってくれることを祈ります。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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