Dr.中川 がんサバイバーの知恵

黒沢年雄は3年ぶりに…膀胱がんの再発予防に“M字開脚検査”

黒沢年雄さん
黒沢年雄さん(C)日刊ゲンダイ

 どんながんであれ、治療後は再発のチェックのため定期的な検査が欠かせません。俳優の黒沢年雄さん(76)は、2008年に膀胱がんが見つかり、2度の手術を受けていて、このほど検診を受けたそうです。5日のブログによれば、「問題なし」とのことで、何よりでしょう。

 一般にがんの治療は5年で一区切りで、診断から5年が経過して再発や転移がなければ、まず大丈夫だろうと考え、ほぼ治ったとみなされます。もちろん例外はあり、前立腺がんや乳がんなどは治療後20年以上たってから再発することも珍しくありません。

 膀胱がんもそうで、診断から1~2年以内に60~70%が再発するといわれます。さらに10~20%は、再発を繰り返しながら、膀胱の粘膜の奥へ少しずつ浸潤していくことがあるのです。そんな特徴があるため、10年を超えて経過をチェックすることが欠かせません。黒沢さんが膀胱がんの診断から13年を経て検査を受けているのは、それゆえだと思います。

 そのための検査は膀胱内視鏡検査で、ちょっとつらいかもしれません。黒沢さんは、「憂鬱で屈辱(的)な検査はない」と記しています。

 ベッドにあおむけに寝て両膝を開いた体位を取ります。いわゆるM字開脚です。看護師の前で、下半身丸裸ですから、抵抗はあるでしょう。

 そのポーズで陰茎の先端を消毒し、局所麻酔の入ったゼリーを尿道の入り口から注入。その処置を終えると、膀胱鏡を挿入し、膀胱の中を診るのです。意外と痛みは少なく、膀胱鏡の進入時に少し痛む程度です。

 私も18年12月に膀胱がんを見つけてから1年間は3カ月ごとに膀胱鏡検査を受けました。2年目からは半年に1回で、術後10年目まで続けるつもりです。その後は1年に1回のペースで、恐らく一生続けるでしょう。

 膀胱がんの治療を終えてからは、とにかく再発リスクを潰すことが大切です。それゆえ検査の回数が多く、米国では「医療費が最もかかるがん」といわれます。逆にいうと、死亡に直結しないケースが多い証しともいえるでしょう。

 黒沢さんのブログには、気になる記述もあります。「(膀胱がんの手術後)毎年検診していたがここ3年しなかった」という点です。これまで説明した通り、膀胱がんは再発しやすく、そのチェックが不可欠。検査が3年ぶりというのはよくありません。膀胱がんの方は、決められた期間を守って、検査を受けることが無難です。

 膀胱がんを巡っては、乳酸菌を取っていると、再発を防ぐ可能性があることが報告されています。薬ではありませんが、気は心で、私も毎日、乳酸菌飲料を飲んでいます。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事