最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者と家族双方の希望を話し合い、すり合わせる場を持とう

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を受ける時、どのようなケアや医療を望んでいるかといった自分の希望を、医師だけでなく、家族や信頼する人たちを交えて話し合っておくことは非常に重要です。これを、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)といいます。

 人生会議というと、ずいぶん大層なイメージを受けるかもしれません。「人生会議なんて、私に必要なのかな?」と思われる方もいるでしょう。

 私がみなさんに伝えたいのは、「人生会議をしましょう」ということではなく、患者さん側からすれば「自分の気持ちを家族や周囲に伝える場」、家族の側からすれば「家族として患者さんにどうしてほしいかを伝える場」を持ちましょう、ということです。

 患者さん、そして家族をはじめとする周囲の人が、どのようにして人生の締めくくりの時期を迎えたいかを話し合い、気持ちを伝え合う。

 病状が進めば、お互いの希望が変化していくかもしれません。気持ちが揺れ動くこともあります。それでいいのです。その都度、相手に伝え、話し合い、希望をすり合わせていく。

 ポイントは、元気なうちに話し合いの場を持つこと。状態が悪い時には、本当に望むことを伝えられません。痛すぎて非常につらい状態では、悲観的な判断しかできなくなってしまいます。

 こんなケースがありました。多発性骨髄腫と慢性心不全を患う80歳の男性で、ひとり暮らし。疎遠となった家族とは離れているものの、パートナーといえる方が近くに住んでいます。もともと訪問看護は受けており、一時、肺炎で入院し、退院したのをきっかけに私たちの在宅医療を受けることになりました。

 在宅輸血をしながら週1回の訪問介護。それでも、そのうち徐々に足腰が弱り、自力でのトイレや食事が難しくなってきました。そこで、比較的元気な日に、パートナーを交えて今後について話し合うことになりました。

「とにかくパートナーに迷惑をかけたくない」と患者さん。「トイレや食事が自力でできなくなった時、ひとり暮らしでも在宅医療で問題はないのか?」「痛みは取り除いてもらえるのか?」など、2人が心配する問題を一つずつ解決し、納得してもらいました。

 話し合いを経て人生を締めくくる気持ちに覚悟がついたからでしょうか、患者さん自ら連絡を取り、疎遠となっていた家族も患者さんを見舞いに訪れるようになりました。

 その時に改めて、在宅医療の継続と、これからの手続きをパートナーに一任することを確認。パートナーが抱えていた「(患者さんを)最期まで自宅で過ごさせてあげたい」という気持ちと、「でも、果たして本当に自分が支え切れるのか」という不安も解消でき、患者さんはパートナーが見守る中、1週間後にお亡くなりになられました。

 話し合いの場を、どのタイミングで持ちたいか分からない方もいるでしょう。そういう場合は、ぜひ在宅医療のスタッフに相談してください。ここぞ、というタイミングで、話し合いの場をセッティングします。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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