専門医が教える パンツの中の秘密

トイレで用を足したとたんに…「排尿失神」のメカニズム

写真はイメージ
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 夜、ビールなどを大量に飲んだ後、トイレで尿を出したとたんに失神を起こすことがあります。これを「排尿失神」といいます。排尿が失神の引き金(誘因)になることがあるのです。

「失神」とは、脳全体の血流が一時的に低下することで起こる意識消失(気を失う)を指します。通常、数分以内(多くは1分以内)に意識は回復して、後遺症などはありません。

 失神は、心臓病や不整脈が関与して起こる「心原性失神」、起立したときに交感神経がうまく働かず起こる「起立性低血圧」、副交感神経が過度に働いて脳血流が低下する「反射性失神(神経調節性失神)」の3つに大きく分けられます。

 また反射性失神には、過労・痛み・精神的不快感などが引き金になる「血管迷走神経失神」、日常のある特定の動作のときに起こる「状況失神」、頚部(首)の圧迫や首を回したり伸ばしたりすることが誘因になる「頚動脈洞失神」があります。

 そして排尿失神は、反射性失神である状況失神のひとつです。

 状況失神は、排尿以外にも「排便」「飲み込み」「せき」「吐く」「息こらえ」などの動作も誘因になります。

 反射性失神は「副交感神経が過度に働いて起こる」といいましたが、これは「迷走神経反射が過剰に反応して起こる」と言い換えることができます。「迷走神経」とは、頚部・胸部内臓と腹部内臓の一部を支配する副交感神経のことです。

■原因は迷走神経の過剰な働き

 自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は血圧を上げたり、心拍を上げたりする働きがあります。副交感神経は逆に血圧を下げたり、心拍を下げたり、消化管の働きを活発にする働きがあります。通常は交感神経と副交感神経がバランスを保って心身の機能を調節しています。そして「迷走神経反射」は、交感神経の働きが高まった後に起こる、自律神経のバランスを保つ生命の防御反応です。

 これを排尿失神が起こるメカニズムで説明するとこうなります。

 ビールなどを大量に飲んで膀胱(ぼうこう)に尿が充満すると、反射的に血管収縮(交感神経が働く)が起こります。そして排尿をすると迷走神経反射(副交感神経が働く)によって血管が拡張します。

 ところが迷走神経反射が過剰に反応すると、血管の拡張が強過ぎて血圧が下がり過ぎて失神してしまうのです。

 反射性失神には有効な薬はありません。トイレで失神すると、便器で顔や頭部を強打する危険性がありますので、十分注意しましょう。

尾上泰彦

尾上泰彦

性感染症専門医療機関「プライベートケアクリニック東京」院長。日大医学部卒。医学博士。日本性感染症学会(功労会員)、(財)性の健康医学財団(代議員)、厚生労働省エイズ対策研究事業「性感染症患者のHIV感染と行動のモニタリングに関する研究」共同研究者、川崎STI研究会代表世話人などを務め、日本の性感染症予防・治療を牽引している。著書も多く、近著に「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)がある。

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