役に立つオモシロ医学論文

降雪量が多い日と比較 通学手段を変えると交通事故が大幅減

写真はイメージ
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 公共交通機関の利用推進や、道路に路線バスの専用レーンを設けるなど、交通手段の変化やインフラの整備は交通事故のリスクを減らす可能性があります。

 しかしこれらの取り組みが国レベルで交通事故死傷率の低下につながるのか、よくわかっていませんでした。

 そんな中、日本疫学会誌の電子版に、中学生における交通手段の変化と交通事故死傷の関連を検討した研究論文が、2021年2月13日付で掲載されました。

 この研究では日本全国の中学生(12~15歳)が解析対象となりました。一般的に、交通事故のリスクは徒歩に比べて自転車で高いことが知られています。また、大雪の日には自転車での通学が困難になり、多くの中学生が自転車以外の通学手段に切り替えることでしょう。研究では降雪量の多い日とそうでない日の交通事故状況を比較することで、中学生が自転車から他の交通手段に切り替えた場合の交通事故リスクを間接的に推定しています。具体的には、公益財団法人交通事故総合分析センターから入手した登下校中の交通事故データと、これに対応する降雪量のデータを気象庁から入手し、降雪の有無と交通事故死傷(死亡もしくは重傷)率の関連が解析されました。

 その結果、2004~13年の間に中学生の交通事故死傷は3164件発生していました。しかし、自転車通学者の死傷率(年間10万人当たりの件数)は、降雪が100センチ以上の月ではほぼ0件であり、積雪が0センチの月と比べて女子学生では86%、男子学生では88%、死傷率が低下しました。

 つまり、積雪が多い日は、自転車以外の交通手段に切り替えた中学生が多く、この切り替えが死傷率の低下をもたらしたものと考えることができます。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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