Dr.中川 がんサバイバーの知恵

大空真弓は皮膚がんを切除 「一がん息災」が長生きの秘訣

大空真弓さん
大空真弓さん(C)日刊ゲンダイ

 女優の大空真弓さん(81)が昨年、皮膚がんの手術を受けていたと報じられ、話題です。報道によると、口の近くにできた皮膚がんはほとんど分からないほど小さく、手術の痕も見えない程度だといいます。女優の仕事を考えると、早期発見で治療できたのは何よりでしょう。

 58歳で乳がんが見つかり、左胸を全摘。それとは別に60歳で胃がん、63歳では食道がんを発症するなどこれまでに9度のがんを克服しています。転移ではなく、それぞれ新たながんです。こういうケースは多重がんと呼ばれ、遺伝的な要因があるかもしれません。

 一般の方は会話で「ウチはがん家系で」などと遺伝の可能性に触れることがあります。しかし、遺伝が原因となるのは全体の5%ほどです。

 話を皮膚がんに戻しましょう。皮膚は表面に近い方から表皮、真皮、皮下組織の3つに分かれます。そのうち表皮は、表面から順に角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層構造です。

 日本人の皮膚がんで最も多いのは、基底層や毛包などを構成する細胞からできる基底細胞がん。大空さんも、この可能性が高いと思います。

 多くは高齢者にでき、7割以上は顔の中心寄りにできやすい。鼻やまぶた、口の周りなどで、ホクロのような黒い盛り上がり、光沢のあるホクロに気づいて見つかることがあります。

 このタイプは一般に痛みやかゆみはありません。今までなかったホクロや黒いシミができて、だんだん大きくなってきたら要注意です。こういう変化が早期発見のキッカケになりますから、大きさの変化が分かるように携帯などで写真を撮っておくとよいでしょう。

 基底細胞がんが転移するのはまれで、手術でしっかり切除すれば治りやすい。通常、病変のフチから3~5ミリ広めに切除します。

「しっかり」「広めに」と強調したのはワケがあって、確実に切除しないと、同じようなところで再発したり、筋肉や骨などに浸潤したりすることがあるのです。

 切除すると、見た目はもちろん、目や口の開閉など機能性が障害されますから、切除した部分の再建手術が不可欠。人工の皮膚で穴を埋めたり、別の部分の皮膚を移植したりします。

 小さな切除で済めば、再建手術も簡単なもので済みます。その意味でも早期発見は重要です。

 9度のがんを乗り越えた大空さんは、少しでも異変に気づくと、受診することを心掛けているといいます。3~4カ月に1度のペースで検診を受診するそうです。

 無病息災が健康の理想形といわれますが、まったく病気をしない方は、検診がおろそかになり、あるとき手遅れな病気が見つかるケースが珍しくありません。その点、たとえがんでも早期発見で克服できれば、その後の検診や検査を欠かさず受けるようになります。そうすると、病気と折り合いながら長生きできることが、往々にしてあるのです。

「一がん息災」、大空さんはその典型でしょう。3年前に膀胱がんになった私も、「一がん息災」を目指したいと思います。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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