正しい「昼寝」を極めれば睡眠負債はしっかり返済できる

写真はイメージ
写真はイメージ

 世界でいちばん睡眠時間が短い日本では、少しずつ睡眠不足が蓄積する「睡眠負債」を抱えている人が少なくない。そんな眠りの借金を返済するには、「昼寝」がベストだという。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身氏に詳しく聞いた。

 徐々に積み重なっていく睡眠負債を抱えたまま放置していると、日中のパフォーマンスが低下するだけでなく、高血圧や糖尿病などの生活習慣病をはじめ、心臓疾患やがんといった命に関わる病気の発症リスクがアップしてしまう。毎日十分な睡眠時間を確保したり、睡眠の質を高めることができれば負債は減らせるが、実践するのはなかなか難しいという人がほとんどだろう。そこで有効なのが「昼寝」だという。

「日頃の睡眠不足を解消するため、休日に寝だめをしているという人は多いのですが、寝だめでは睡眠負債を返済できません。むしろ休日に長時間寝てしまうと睡眠リズムが崩れ、翌週の睡眠に悪影響を与えてしまいます。日々の睡眠時間をなかなか増やせない場合、睡眠負債を返済するには、昼寝がおすすめです。近年、昼寝をすると午後からのパフォーマンスが上がることが科学的に実証されています。アメリカでは昼寝を推奨する企業が増えていて、中国でも小中学校では昼食後に昼寝をする習慣があります」

 ただし、とにかく昼間に眠ればいいというわけではなく、正しく昼寝をする必要がある。

「昼寝は15分程度の短時間にとどめるのが鉄則です。30分以上寝てしまうと、夜間の深い睡眠時に出現する脳波のデルタ波が出現し、昼寝後の目覚めが悪くなります。また、暗い環境でベッドに横になるのも昼寝後の仕事効率を低下させます。昼寝は脳のブレークタイム。15分程度目を閉じて脳を休めるのが理想です」

■午後3時以降は逆効果

 昼寝をするタイミングにも注意したい。われわれには「睡眠―覚醒」の生体リズムが備わっていて、起床から4時間後に脳が最も活発になって覚醒レベルが最高になる。逆に起床から8時間後には眠くなるようにできている。普段、朝6時に起きている人は、午後2時ごろに最も眠くなるのだ。

「生理的に眠くなる午後の時間帯に昼寝をすると、自律神経の疲労を回復させて夜間の睡眠の質を高めます。毎朝6時に起きている人は、眠くなり始める午後1時から2時ごろまでに昼寝をするのが効果的です」

 また、深部体温(内臓や脳など中心部の温度)のリズムにも注意が必要だ。深部体温が高いと体が動くようになり、逆に下がれば下がるほど体がだるく眠気を催す。個人差はあるが、一般に深部体温は起床から11時間かけて上昇し、16時間後からは下降がスタートする。朝6時に起床している人は午後5時にピークを迎え、午後10時に下がり始める。夜に眠くなると手が温かくなるのは、放熱して体温を下げようとしている表れだ。

「深部体温が高い午後3時以降に昼寝をするのは逆効果です。夜間に体温を下げて心地よい眠気と質の高い睡眠を誘発するメラトニンの分泌を低下させてしまいます。睡眠負債を返済するためにも、昼寝は午後3時までに済ませましょう」

 昼寝の有効性が浸透していない日本では、勤務中に堂々と昼寝するわけにもいかない。ただ、午後2時前後にデスクで15分ほど目を閉じて仮眠するくらいなら実践できる人も多いはず。

 帰宅の電車で隣の駅に着くまでの間に眠ってしまったり、会議中など公の場で寝落ちしてしまうような人は、睡眠負債がたまっている。正しい昼寝で早めに返済したい。

関連記事