今月12日、65歳以上の高齢者への新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まった。全国3600万人を対象にしたワクチンは供給量の少なさから、開始できたのは全市区町村の1割弱だ。
高齢者のワクチン接種は、2月中旬から始まった医療従事者向けと並行して実施されている。そのため、自身が未接種のまま高齢者の接種に当たる医師もいる。
約40年にわたりワクチン開発に従事している奥田先生も、横浜市内のクリニックで新型コロナウイルス患者の診療にも当たるが、自身は未接種だ。
神奈川県では2月25日に医療従事者向けの予防接種受け付けを締め切っている。だが、「接種の予定について連絡はない」と言う。
国内ワクチンの開発も輸入も後手後手になった政府の対応による結果だ。
「WHOによると世界で数十種類を超える新型コロナウイルスワクチンが臨床試験を行いつつあるが、日本の国産ワクチンで臨床試験にたどり着いたのは2社のみ。そのためすべて外国産に頼らざるを得ませんが、世界的な需要に対して製薬会社の製造も間に合っていません。緊急事態下で自国第一主義になっているため、日本で安定的に供給されるのはまだ先です」
【Q】日本がワクチン開発に予算をかけないのはなぜか
【A】「日本政府は国内で流行が始まった1年前、当初の20年度補正予算で、国産ワクチン開発支援に100億円を計上しました。一方で、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)など国際団体には、その2倍以上の金額を拠出しています。この時点で日本政府は、国産ワクチンの重要性を認識せず、輸入すればよいと思っていたのでしょう。第2次補正予算でようやく厚労省の日本医療研究開発機構(AMED)がワクチン開発支援に478億円を付けて、21年1月の第3次補正予算で国内企業が大規模な臨床試験を行う際の費用を補助するために約1200億円を計上しましたが、間に合わないでしょう」
完全に認識が甘かったのだ。その結果、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社のワクチン調達費用に6714億円を拠出することになった。しかも、新型コロナウイルスのワクチンを使って健康被害が出た場合の損害賠償は、自国で賄うことになっている。
【Q】政府がワクチンに後ろ向きになっている背景には国民が慎重な姿勢を示していることも大きいとされる。その原因は?
【A】「日本人は世界で3番目にワクチンの副反応への不安を持っている人が多い国だとの報告があります。副反応でいえば、とくに子宮頚がんワクチンをめぐるメディアの報道の影響は大きいでしょう。ワクチンに対するイメージの潮目が変わりました」
子宮頚がんの原因の9割以上を占めるのがHPV(ヒトパピローマウイルス)感染だ。日本では10年から、中学1年から高校1年までの女子を対象に公費で助成するHPVワクチン接種が行われ、13年から定期接種となった。だが、接種後に広範囲な疼痛や運動障害などが報告され、それがマスコミに取り上げられると厚労省は13年6月に接種の積極的勧奨を停止し、現在も継続している。
「確かに人により筋肉痛などの症状がありますが、これは肺炎球菌ワクチンでもそうです。報告された症状は解析されていますが、ワクチン接種との因果関係を科学的に示したものはありません。さらに国内890万接種(約338万人)を対象とした検証で、症状が未回復であったのは約10万人あたり5人。15~20歳代の接種は95%以上の子宮頚がん予防効果があることが分かっています」
厚労省も当時「定期接種を中止するほどリスクは評価されなかった」と発表しているが、2002年以降生まれの女子は1%しか接種していないのが現状だ。一方で、毎年3000人が子宮頚がんで亡くなっている。
新型コロナのワクチン接種は努力義務(任意)だが、感染拡大に歯止めをかけるには国民の6~7割の接種が必要となるだろう。
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