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新型コロナウイルス感染症ではない「肺炎」の原因と治療は?

内科医の谷本哲也氏
内科医の谷本哲也氏(提供写真)

 新型コロナウイルス感染症によって引き起こされる肺の炎症症状が懸念されていますが、そもそも肺炎自体は、日本人の死因で5番目に多い疾患で、年間約10万人が亡くなっています。

 肺炎の多くは、気道を通して肺に侵入した細菌(細菌性肺炎)やウイルス(ウイルス性肺炎)、カビ(真菌性肺炎)などの病原体が増殖し、肺に炎症が引き起こされて発症します。

 感染性肺炎は発症した場所によって「市中肺炎」と「院内肺炎」に分けられます。市中肺炎は自宅など日常の生活環境、院内肺炎は病院内(入院後48時間以降)で発症した肺炎をそれぞれ指します。治療に使用する薬や対応などが異なるために区分けしています。

 一般的な肺炎は市中肺炎で、多くは細菌の感染によるものです。細菌性肺炎は肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などが原因で、湿った咳(せき)や黄色や緑を帯びた痰(たん)が出るのが特徴。細菌以外の微生物が原因の場合は「非定型肺炎」と呼ばれ、マイコプラズマやクラミジア、レジオネラが有名です。ウイルス性肺炎は、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、コロナウイルスなどが原因です。原因菌は一種類とは限らず、複数になることもあります。

 院内肺炎は、がんや心臓病などの疾病による免疫力の低下で発症するケースが多いです。手術で使用した人工呼吸器が原因で起こることもあります。

 肺炎の診断は医師の診察や血液検査、細菌培養、胸部X線写真、胸部CTなどの結果を総合的に判断して行います。治療法は近年で大きく変わってはいません。病原体はすぐには特定できないため、効果がありそうな抗生物質をまず投与する経験的治療が基本です。

 ウイルスなど細菌以外の原因が分かった場合、たとえばインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスには専用の抗ウイルス薬を使います。また、解熱剤や去痰剤などによる対症療法を行ったり、ステロイドというホルモン剤を投与したり、人工呼吸器や人工肺(エクモ)を使うこともあります。

 ただし、新型コロナウイルスと同様に病原体はすぐに変異します。抗生物質を過剰に使用すると薬が効かなくなる「耐性菌」が増えてきます。いかに無駄な抗生物質の使用を減らし耐性菌の出現を防ぐかが、世界的な課題となっています。

 高齢者で短期間に誤嚥(ごえん)による肺炎を繰り返したり、人工呼吸器などを使用しても回復の見込みがなかったりする場合は、ご家族と話し合い、患者さんに負担のかかる治療法は差し控える選択肢もあります。

 一部の肺炎は予防することが可能で、とくに肺炎球菌は肺炎の中でも、頻度が高く、重症化しやすい。そのため、がんの治療中などで免疫力が低下している方や高齢者(65歳以上)には「肺炎球菌ワクチン」の接種をすすめています。1回の接種で免疫力が5年以上持続するといわれます。

▽谷本哲也(たにもと・てつや)1997年九州大学医学部卒。ナビタスクリニック、ときわ会常磐病院、社会福祉法人尚徳福祉会、霞クリニック、株式会社エムネス、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所。年間延べ1万人前後の診療に携わる。著書に「知ってはいけない薬のカラクリ」(小学館)、「エキスパートが疑問に答えるワクチン診療入門」(金芳堂)など。

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