【Q】狼は犬の祖先と言われていますが、犬には豊かな表情があるのに、狼は無表情で冷徹なイメージがあります。理由は何ですか?
【A】確かに犬は喜怒哀楽の表情があるようです。愛犬家団体の雑誌「JKCガゼット」に動物学者の今泉忠明氏の「犬の進化論」という記事が掲載されています。その中で、犬にも喜(喜び)怒(怒り)哀(悲しみ)楽(楽しみ)の感情があり、さらには飼い主に褒められた時の愛(あい)の感情が有ると書かれています。
では犬はどのようにして表情を手にいれたのでしょうか? 今泉氏は有力な医学雑誌「PNAS」に掲載された「犬の顔の筋肉の解剖学的構造の進化」(2019年6月公開)という論文を引用しています。ニューヨークタイムズ紙でも紹介されたこの論文には犬に有ってオオカミになかったのは「内眼角挙筋」と目じりの横に有って目尻を耳の方に引き寄せる「外眼角後引筋」だとしています。
実際に、この論文の要旨には次のように書かれていました。
「家畜化はオオカミを犬に変え、その行動と解剖学的構造の両方を変えました。ここでは、わずか3・3万年の家畜化が人間との顔のコミュニケーションのために犬の顔の筋肉解剖学を変えたことを示す。犬とオオカミの頭の解剖により、内側の眉毛を激しく上げる原因となる筋肉は、犬には均一に存在するが、オオカミには存在しないことを示す。また、犬とオオカミから収集された行動データは、犬がオオカミよりもかなり頻繁に、そしてより高い強度で眉の動きを生み出し、最高強度の動きが犬によってのみ生み出されることを示しています。興味深いことに、この動きは子供の顔を想起させ、人間が悲しんでいるときに作り出す表現にも似ているため、人間の共感を引き起こす可能性があります。犬の表情豊かな眉毛は、人間の好みに基づいた選択の結果であると仮定できるのです」
犬が人とのコミュニケーションのために長い年月をかけて顔の筋肉を変え、人間好みの表情を作ったとはすごい話です。 よく「目は口ほどに物を言う」といわれますが、まさしくそうで、目の動きがある意味、最高のコミュニケーション手段だということでしょうか。
みんなの眼科教室 教えて清澤先生