最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

患者の旅立ち後、残された家族にとってもペットが心の支えに

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 前回、「ペットと一緒に療養生活を送れるのも在宅医療ならでは。ペットが患者さんの心の支えになっている」といった話を紹介しました。

 最近亡くなった患者さんのカルテに、奥さまのこんな言葉が記されていました。それは、「猫はね、やっぱり分かっているのかな。いつも主人がいた椅子に座らないですね」というもの。

 患者さんが旅立っていった後、残されたご家族の抱える喪失感の大きさは計り知れないものがあります。

 ただ、もしそこに患者さんに常に寄り添い、一緒に過ごしてきた喪失感を共有できるペットがいたなら、ご家族の方にとっては大きな救いになるのではないかと思うのです。

 91歳の男性で奥さまと2人暮らしの患者さんがいました。寒い季節になると、猫を抱っこして床に就くのが日課というほどに、日常生活に猫が潤いと温かさを与えていました。

 ある日、聴覚の衰えを訴えられたので、試しに補聴器の貸し出しをしました。すると、大きかった地声が小さくなり、TVの音量が下がっていきました。そして今まで意識していなかった猫の爪研ぎの音や、かすかな鳴き声が聞こえるようになったと、患者さんが大変喜ばれたことが、今でも思い出されます。

 また82歳の女性の患者さんは、小型犬をペットとして飼っていました。歩行器を使いながら散歩に犬を連れていっていたのですが、時に駆け回る犬を捕まえようとして、ゼーゼーハーハーと息が上がることも。そんな犬との日常を送る患者さんが笑いながら話していたことが印象に残っています。

「もう寿命なのかなって思っているけど、ルイ(ペットの犬)がいるから頑張らないとって」

 55歳のアルコール性肝硬変の男性の患者さんもいました。看護師だった奥さまとお子さん、要介護2の患者さんのお母さまといった3世代と大型犬1匹のお宅でした。患者さんを中心にした仲の良いご家族でしたが、ご本人は病気であるにもかかわらず、お酒を飲み、たばこも吸うといった生活を送っていました。奥さまはそんなご主人を見かねて入院させるものの、ご本人が「病院は嫌だ」と言って強引に退院。これまで何度か入退院を繰り返してきたということでした。

 ところが本格的に在宅医療が始まると、リビングに3世代と犬が仲良く集まり、おしゃべりをしたり、テレビを見たり、食事をしたり。そんなだんらんを2カ月ほど過ごし、最後は笑顔で旅立っていきました。そして、そんな患者さんとご家族の傍らにはやはり、愛犬が最後まで別れを惜しむかのようにたたずんでいたのが印象的でした。

 患者さんとペット、そしてご家族とペットとの関係を見ていると、在宅医療を進める中でペットが果たす役割が決して小さくないことを痛感させられます。ペットは患者さんにとってだけでなく、ご家族にとっても、心の支えとなる大事なパートナーなのです。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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