女性の不妊治療で何が行われているのか

不妊治療を続けても難しい場合の選択肢 卵子提供の実情と課題

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 44歳のA子さんは、41歳の頃から不妊治療を開始して体外受精へと治療を進め、何回も胚移植を行ないましたが、妊娠には至っていません。最近は採卵を試みましが卵子すら採れなくなっており、「もうこれ以上、治療を続けても意味がないでしょうか?」と担当医に尋ねました。

 体外受精を行えば、すべての人が妊娠できるというわけではありません。患者さんの年齢、これまでの治療経過、卵巣機能を総合的に判断し、治療を継続しても妊娠を見込める可能性が極めて低い場合には、「治療を続けても妊娠は難しいです」と正直にお答えします。絶対に妊娠しないとは誰も言えませんが、漫然と治療を続ければ多大なるお金と時間を要し、また別の選択肢を選ぶ機会を逸してしまう可能性もあるのです。

 自分自身の卵子での治療をあきらめた場合、次にお子さんを持つための選択肢となるのは、他の女性から卵子をもらい受ける卵子提供か、特別養子縁組などの制度を利用することになります。特別養子縁組は昨年4月に民法が改正され、縁組を望む夫婦の手続きが軽減されましたが、それでもいまだにハードルは高く、なかなか増えていないのが現状です。

■「生殖医療民法特例法」で提供配偶子による親子関係が明瞭に

 卵子提供は、若い女性からもらい受けた卵子をご主人の精子と受精させ、できた受精卵(胚)を自身の子宮に戻します。昨年12月に国会で生殖医療民法特例法が可決されました。この法案により、第三者から卵子を受けて妊娠・出産した場合、出産した女性を母親、夫の同意を得て夫以外から精子の提供を受けて生まれた子供は夫を父親とするとされ、これまで曖昧だった提供配偶子(精子・卵子)による治療を受けた場合の親子関係が明確化されました。

 実際には、この法案が成立するかなり以前から卵子提供を受けている患者さんは大勢おられます。これまでは国内で提供を受けることが難しいため、主にハワイやカリフォルニア、台湾などで卵子提供が行うケースがほとんどでした。しかし最近では日本にも卵子提供を仲介する業者が存在し、若い日本人女性をドナーとして、海外で採卵した卵子を日本人向けに提供するケースも増えてきつつあります。コロナ禍で海外への渡航が容易ではない現在、国内でもドナー女性の採卵を行い、卵子提供を行う医療機関も出てきました。

 不妊治療と他の医療との大きな違いは、患者夫婦のことだけでなく、これから生まれてくる子供のことも考えて治療しなければならないという点です。「自分がどのようにして生まれ、自分の遺伝的ルーツはどこにあるのか」を知る権利、これを「出自を知る権利」と呼びます。現在の精子・卵子(配偶子)の提供は、提供者は匿名であることが大前提であり、そうなると提供配偶子で生まれたお子さんは、「遺伝上の親が誰であるか」を知るすべはありません。

 これから日本でも提供配偶子による生殖医療はますます増えていくと予測されます。その中で提供を望むご夫婦も、われわれ医療者も「生まれてくる子供の福祉」を十分に考えて、治療を進めて行く必要があるのです。

小川誠司

小川誠司

1978年、兵庫県生まれ。2006年名古屋市立大学医学部を卒業。卒後研修終了後に慶應義塾大学産科婦人科学教室へ入局。2010年慶應義塾大学大学院へ進学。2014年慶應義塾大学産婦人科助教。2019年那須赤十字病院副部長。2020年仙台ARTクリニックに入職。2021年より現職。医学博士。日本産科婦人科学会専門医。

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