進化する糖尿病治療法

血糖コントロールが悪い糖尿病患者は歯周病発症率が2.6倍高い

写真はイメージ
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 今回は糖尿病と歯周病との関連について、改めてお話ししたいと思います。

 2型糖尿病では、血糖コントロールが良くないと歯周病が悪化することがはっきりと分かっています。1990年、米国の大規模な疫学調査の結果が発表されました。それによると、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて、歯周病発症率が2.6倍高いとのこと。
 
 さらに大規模な調査として、第3回米国民栄養調査があります。2型糖尿病患者が重症の歯周病を発症している率は、HbA1c9.0%以上で2.9倍、9.0%未満で1.56倍。ちなみにHbA1cの基準値は、日本糖尿病学会の糖尿病治療ガイドラインでは4.6~6.2%です。

 ほかにも糖尿病と歯周病の関係を表した研究があり、米国男性を対象にした20年間の大規模コホート研究では、2型糖尿病は歯周病の発症率を29%、1年当たりの歯の喪失率を9%上昇させるとの結果です。

 ドイツのコホート研究でも、HbA1cが7.0以上の糖尿病患者は、歯周病の進行や歯の喪失のリスクが有意に高くなると報告されています。

 日本では、HbA1c6.5%以上の2型糖尿病患者は健常者より歯周組織破壊の相対リスクが1.17倍高まるという研究発表があります。

 一方、1型糖尿病では、「血糖コントロールが不良であった群は良好であった群に比べて歯周病が進行する」、また「歯周病治療後の歯周病発症率が高い」との報告があります。

 しかしながら、1型糖尿病と歯周病との関連について適切なエビデンスがないという最近の系統的レビューもあり、今後の検討が待たれます。系統的レビューとは、質の高い研究データから、データの偏りになるものを限りなく取り除き、分析したものを指します。

 なぜ、糖尿病が歯周病を悪化させるのか? それには主に3つの理由が挙げられます。

 1つめは、高血糖で脱水傾向になり、口の中が乾燥して唾液による自浄作用が低下すること。2つめは、高血糖で細菌に対する抵抗力が弱まること。3つめは、血中の過剰なブドウ糖がタンパク質と結び付いてAGEs(最終糖化産物)という物質を作り出し、これが歯周組織の性質を機能的に変化させること。

■認知症にもなりやすい

 歯周病もまた、さまざまな病気のリスクを上げることが知られています。歯がぐらぐらしたり歯の数が減れば食べられるものが限られてきます。すると十分な栄養が取れなくなります。硬いものが食べづらく、加熱しないと食べられないとなれば、熱に弱いビタミン類の摂取量が減ります。栄養不足は体全体の働きを低下させ、病気への抵抗力を弱めます。食事量が減ると、衰弱や虚弱を表す「フレイル」にも陥りやすくなります。

 また、歯周病の炎症が続くと、歯周病菌や歯周病菌の出す毒素が血液中に入り込み、血管内で炎症を起こし、血栓(血の塊)を生じさせます。血栓は動脈硬化を促進し、狭心症や心筋梗塞、脳卒中のリスクを高めます。

 最近は、認知症のリスク因子にも歯周病は数えられています。歯周病菌や歯周病菌の毒素は脳の血管にも影響を及ぼしますし、歯周病で噛む回数が減れば、それだけ脳への刺激も少なくなります。糖尿病も認知症のリスク因子ですので、ダブルで認知症を起こしやすくなります。

 本来は、糖尿病と歯科が連携で治療を行えればいいのですが、そういったシステムが整っている医療機関は多くはありません。口腔ケアは、ブラッシングを主とした自分で行うセルフケアと、歯石除去など歯科医院で行うプロフェッショナルケアの両輪で行わなければ、十分な結果は得られない。糖尿病の主治医でも、重要とわかっていても歯科受診の勧めはおろそかになりがちです。

「歯科医院に行くのが面倒」「あのキーンとした音が苦手」といった人は多いかと思いますが、人生100年時代を健康的に、楽しく生きるために、歯のメンテナンスは外せません。何年も歯科医院に行っていないという人は、この記事を読んだらすぐに歯科医院の予約を取ってほしいと思います。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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